研究活動支援対象者の活動レポート

骨導超音波補聴器による和声知覚特性の解明独立行政法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門 中川誠司 主任研究員 インタビュー2011年10月25日 取材

独立行政法人 産業技術総合研究所 健康工学研究部門の主任研究員として、従来の補聴器では十分な聴覚を回復することができない重度難聴者向けの新型補聴器などを研究・開発している中川誠司主任研究員(以下、中川主任研究員)。そんな中川主任研究員の研究「骨導超音波補聴器による和声知覚特性の解明」が2010年度研究活動支援の対象になりました。今回は、その内容について、大阪府池田市にある産業技術総合研究所の関西センターで中川主任研究員にお話をお聞きしました。

最重度難聴者の「音楽を聞きたい」という要望をかなえる補聴器を開発するために

以前から、脳・神経の動きを調べて医療機器や福祉機器へと応用する、医用生体工学(バイオメディカルエンジニアリング)の分野を専門としてこられた中川主任研究員。現在は、日本国内に8万5000人、世界中に数百万人いるという最重度難聴者に向けた、補聴器などの開発を進めておられます。その中で、特に高い効果が得られる技術として期待を寄せているのが、通常は耳で聞くことができない超音波を、骨を介して伝える「骨導超音波」です。

中川誠司 主任研究員

中川: 「最重度難聴者の方でも骨導超音波を聞くことができる」という報告は以前から存在していましたが、一部の研究者からは疑いの目で見られていました。私たちの研究グループは、脳磁界計測という方法を使い、「骨導超音波を聞くことで重度難聴者の聴覚野が活動すること」や、「骨導超音波を振幅変調することで音声情報を伝達できること」を客観的に証明しました。これらは、骨導超音波知覚がまぎれもなく聴覚の一種であることや、骨導超音波を使った新型補聴器の開発が可能であることを示す実験結果でした。

しかし、なぜ重度難聴者の方々にも音が聞こえるのか、そもそもなぜ通常は聞こえない超音波を聞くことができるのか、そのメカニズムは分からないままでした。骨導超音波を利用した補聴器を作るためには、骨導超音波知覚そのものの理解が欠かせません。そのため、骨導超音波を応用した補聴器の開発と並行して、骨導超音波知覚の心理特性や神経生理メカニズムに関する研究を進めてきたのです。

また、これまで日本における補聴器開発の目的は、「いかに言葉をクリアに聞こえるようにするか」であり、本研究もそれに向けて進められていたそうです。しかし、最重度難聴者が本当に聞きたいものは言葉以外にもたくさんあります。その中で、特にニーズが高かったのが音楽だそうです。

中川: 実験協力のためにお越しいただいた最重度難聴者の方から、「音楽を聞きたい」というご要望をお聞きすることが少なくありませんでした。そこで、「いかに音楽を楽しむことができるか」ということに主眼を置いた、骨導超音波補聴器の研究に取り組むことにしたのです。