研究活動支援対象者の活動レポート

非線形力学系アプローチを用いた複雑な手指運動のコーディネーション解析東京大学大学院総合文化研究科 工藤和俊 准教授 インタビュー2013年07月22日 取材

特定の協調動作を素早く行うと、意図していない動きが発生する

今回行った研究では、ピアノ演奏の初中級者に協力を依頼し、複数の指を組み合わせた難易度の異なる片手のタッピング(打鍵)動作を実施。それぞれ最初はゆっくりと、徐々に動作のテンポを速めていく、という方法で行いました。また、対象となる指先に小型の反射マーカーを貼付して、その動作の協調特性を3次元動作解析しました。

工藤:人差し指(Index Finger)と 中指(Middle Finger)を交互にタッピングする動作や、中指と、薬指(Ring Finger)+小指(Little Finger)のタッピングを交互に繰り返す動作など、複数指を使う協調動作を観察するため、全部で11の課題に取り組んでいただきました。

人差し指と中指で交互にタッピングする動作【課題A】の場合、テンポを速めても交互動作が継続でき、各指の垂直位置を軸とした平面に軌道をプロットしてもその形が変化しませんでした。この図では、軸に平行な成分が指の独立運動、負の傾きを持つ対角方向への成分が、互いに逆方向への指運動を示しています(図1)。

次に行った中指と薬指で交互にタッピングする動作【課題B】では、テンポを速めると、(1)交互タッピングの正確さ減少(交互から同時へ)、(2)指の振幅減少、(3)指運動の協調関係の変化(軌道プロットの対角成分減少)という複数の変化が生じました。これらの変化はみな、意図した演奏を行おうとする際の妨げになります。

また、複数の指を使ってさらに複雑な動作を行ったとき、テンポが遅いうちは課題動作遂行のための協調関係が成立していても、テンポを速くしていくと動作の協調関係が不安定になり、プレイヤーの意図とは異なる「引き込み」現象も観察されました。

工藤:人差し指と、中指+薬指の同時タッピングを交互に繰り返す動作【課題C】では、中指・薬指の動作が同期でき、位置を表すプロットも安定的でした(図3)。しかし、薬指と、人差し指+中指のタッピングを交互に繰り返す動作【課題D】では、テンポを速めていくと協調していた動作が不安定になり、人差し指+中指と中指+薬指のタッピングという新たな動作パターンへの引き込みが観察されたのです(図4)。

これらの結果により、薬指を独立的に動かすことは困難であること、その動作を速いテンポで行うと、協調していた動作が不安定になるだけではなく、演奏の足かせになるさまざまな「引き込み」現象が、プレイヤーの意図に反して生じることが分かりました。加えて、4本の指を用いたさらに複雑な運動系列を用いた課題では、系列方向(小指から人差し指 vs. 人差し指から小指)によって運動の安定性やパターン変化に大きな違いが現れることが分かりました。

図1:課題A遂行時の指位置時系列(上段)と
指の位置-位置プロット(下段)

図2:課題B遂行時の指位置時系列(上段)と
指の位置-位置プロット(下段)

図3:課題C遂行時の指位置時系列(上段)と
指の位置-位置プロット(下段)

図4:課題D遂行時の指位置時系列(上段)と
指の位置-位置プロット(下段)