研究活動支援対象者の活動レポート

非線形力学系アプローチを用いた複雑な手指運動のコーディネーション解析東京大学大学院総合文化研究科 工藤和俊 准教授 インタビュー2013年07月22日 取材

演奏の「動き」向上のための、複合的コーディネーション練習を提言

「人間の指とは、なかなか思い通りに動かないもの」という実感は、ピアノを含めたさまざまな鍵盤楽器を練習したことのある方なら誰もが感じることに違いありません。今回の実験では、指の複雑な系列動作を解析することにより、そのような「実感」の背後にある、人間の指運動の協調特性が明らかになりました。これらの結果を踏まえて工藤准教授は、指の「動き改善」のための練習方法を提言します。

工藤:ピアノやエレクトーンなど鍵盤楽器の演奏には、複雑で難しい指運動が求められます。中でも薬指を含めた協調動作の難易度は特に高く、これまで演奏者は、ほかの指を固定して薬指だけを動かす練習など、独立性向上や筋力強化をしてきました。これらの練習に加えて、ほかの指を動かす際に薬指をリラックスさせる練習や、複数の指を組み合わせた複合的なコーディネーション動作の練習を行うことにより、指の動きが改善されます。指動作の「引き込み」にはさまざまなパターンがありますので、練習には多様性が不可欠です。

また、練習のテンポ設定も重要になります。演奏が不安定になり引き込みが生じてしまうテンポ(これを非線形力学系の用語で「臨界周波数」と呼びます)を各自が理解し、徐々にテンポを上げながら臨界周波数を高めていく必要があります。もちろんこれらの練習は、あくまで「動き」を改善するためのものであり、音楽の芸術性を高めるためには、良い音を識別できる感性を磨く必要があるのはいうまでもありません。また、練習効果を十分に引き出すためには、よく休み、よく寝ることも極めて重要です。

工藤和俊 准教授

工藤准教授は、今後の研究方針として、さまざまなレベルの演奏者における協調特性のデータベース化や、ピアノ以外の各楽器における「足かせ」の解明とその克服方法発見などを掲げています。

工藤:音楽演奏やスポーツに共通する、熟練者ならではの身体操作や実力発揮方法についてもさらに研究を進めたいと思います。そして、スランプや伸び悩みなどの原因解明や、「あがり」の対策方法開発なども含めて、プレイヤーのパフォーマンス向上を総合的に支援していく予定です。

今回の工藤准教授の研究により、音楽の演奏指導や障害予防のための新しい指針が得られました。今後も科学的なアプローチにより、音楽に関する研究をさらに深めていかれることを期待しています。

支援対象者プロフィール(取材時)

工藤和俊 准教授

東京大学大学院総合文化研究科 准教授

支援対象研究

課題名
非線形力学系アプローチを用いた複雑な手指運動のコーディネーション解析
研究期間
平成24年4月~平成25年3月