研究活動支援対象者の活動レポート

幼児の歌記憶に音楽要素が与える影響 脳波PSD法による検討お茶の水女子大学 大学院 博士後期課程 松﨑真実 さん インタビュー2015年01月27日 取材

歌を記憶する動作と歌の構成要素の間で、いくつかの相関関係が見られた

まずは行動実験を実施。モデルとなる歌と「メロディーライン」「リズム」「調性」「歌詞」をそれぞれ変化させた歌を組み合わせたペア、さらに「まったく同じ歌」と「まったく違う歌」を加えたペア。これらをすべて日本語・中国語の2バージョンを用意し、計12ペア24曲を刺激音としました。それを3~6歳の幼稚園児、男女合わせて39名に聴かせて、それぞれの違いを判別できているか否かを回答してもらいました。同時に「TK式新幼児知能検査」を行い、歌記憶との関連性も探りました。

松﨑:年少・年中・年長の各世代の幼児を13人ずつ、合計39名の幼児に協力を依頼しました。「メロディーライン」「リズム」「調性」「歌詞」の4要素を変化させた音楽を聴いて、「音楽も言葉も同じと感じたら、○」「音楽か言葉どちらかが違うと思ったら、△」「音楽も言葉も違うと感じたら、×」という3つの選択肢から適切な回答を選んでもらい、結果を点数化しました。

実験の結果、歌記憶能力については、年齢別・性別・音楽歴で明確な総合点の違いが現れませんでした。しかし、調性が変わる課題については、年少児の方が年長児よりも成績が良いという傾向が見られました。年少児の92%が課題を聴き分けた一方で、年長児の正解率は75%と下がったのです。この結果から、幼児が絶対音感から相対音感に移行する過程が関係していると推測しました。

松﨑:歌記憶課題は、日本語と中国語の2カ国語で検証しましたが、その成績には有意な正の相関関係がありました。そこから、幼児は歌詞に依存せず音楽要素を聞き分ける能力があると推測しました。知能検査との関連性も調査しましたが、「思考力」の知能と歌記憶の点数に関連があることが分かりました。この結果については、先行研究で、ピアノ学習との間に関連があるとされていました。私の研究では、その音楽能力と空間認知能力の関わりが、後天的ではなく先天的である可能性を示唆しました。また、歌のリズムが違う課題と「数」の知能にも相関関係があることが分かりました。

そして、行動実験の結果をベースに、次はドイツのギーセン大学にて歌記憶中の脳波測定実験を実施。実験対象者は幼児3名と、その比較のために成人2名。その後、日本でも同様の実験を継続して行いました。まずは被験者に脳波計を装着し、松﨑さんが用意した12ペア計24曲の音楽を聴いてもらい、「同じ」「言葉が同じ」「音楽が同じ」「言葉も音楽も違う」の4つの選択肢から回答を選択するという課題を与えました。そして、刺激音を聴取したときだけ脳波を計測するのではなく、継続的に脳波を計測し分析する「PSD法」を用いました。

松﨑:今はまだ、被験者の数も少ないので明確な回答を出すことはできません。先行実験では図形記憶時にθ波の増大が見られることが分かっていましたが、今回の歌記憶のマッチング課題聴取時に、記憶課題聴取時と比べてθ波の増大が見られました。現在も引き続き、結果の分析を継続しています。

写真1:実験の様子(1)。5歳の男児に対して行った脳波の聴取実験

写真2:実験の様子(2)。4歳の男児に対して行った、歌の記憶実験

画面3:脳波PSDの波形グラフ(記憶課題聴取中)

画面4:脳波PSDの波形グラフ(マッチング課題聴取中)

音源5:中国語のモデル歌と、そこからメロディーラインを変化させた歌