活動リポート:森田啓佑さん(チェロ)

2020年度の支援対象者で、現在、ザール音楽大学大学院に在籍されている森田啓佑さんにお話しを伺いました。

レッスンの始まり

兄がヴァイオリンを習っていたことがチェロと出会うきっかけでした。レッスンする兄のそばにいた私の様子をヴァイオリンの先生がよく見ていらして
「チェロはいかがですか。楽器が違うと世界が広がりますよ」
と母にアドバイスしてくださったそうです。自分の楽器を持てることが嬉しくて、私はすぐにレッスンを始めたと聞いています。
言葉でのやり取りが難しい時期からレッスンをしてくださったのが佐藤明先生でした。習い始めた時のことは覚えていないのですが、レッスン中に段ボールのロボットやくじ引きなど手作りおもちゃが出てきて楽しかったことは記憶の中にあります。

「めぐろパーシモンホール」でのリサイタル(2020.12.27)

音楽の道を選ぶまで

振り返ってみると、先生方の存在があります。まず、小学生の時にマスタークラスでお世話になった林峰男先生です。林先生は、ギコギコと弾く分数チェロから響きや色を引き出そうとしてくださったのですが、「音色を作る」ことの意味を私自身が理解したのはずっと後になってからでした。この頃が、気づかないうちに最初の転機になっていたように思います。
次の転機は、中学生の時に参加した倉田澄子先生のマスタークラスでした。山中湖のペンションに宿泊してみんなで一緒に弾いて、ご飯を食べて、夜はおしゃべりして、夜中まで騒いで怒られました。チェロが楽しいと初めて感じた数日間でした。
大きな転機となったのは、中学3年生の夏から秋にかけてです。倉田先生がこうおっしゃったのです。
「今夏はチェロを出さないで思い切りボールを蹴って真っ黒になっていらっしゃい!」
サッカーかチェロか迷っていた私は、言われた通りにチェロに触りもしませんでした。仲間とボールを蹴って汗だくになりながら、自分の中から音楽を押し出そうとしていたのかもしれません。不思議なことに、夏が過ぎて秋になってくると、やっぱりチェロを続けてみようかなと思うようになったのです。

ザール音楽大学

室内楽試験のあとに

ザール音楽大学について

ザール音楽大学に在籍する日本人は数えるほどしかいません。必然的に授業や室内楽で日本人以外と接することが多く、ドイツ語を母国語のように扱う外国人留学生の堪能さには今でも驚かされます。学部に在籍して驚いたのは出欠管理が厳しいことです。勉強するために在籍しているので当然なのですが、1学期の間に欠席を認められるのは3回までです。コンクールや演奏会でも欠席の理由になりませんので、必死に授業を受けました。
大学をあげて取り組むオーケストラ・プロジェクトは印象に残っています。昨年度は『ヨハネ受難曲』を取り上げ、何人ものソリストのレチタティーヴォ(歌というよりは言葉)に通奏低音で合わせるというものでした。言葉と音楽という組み合わせは瞬時の適応力を必要とし、考えていた以上に難しかったです。

大学のチェロセクション

授業の一環として地元のホールでマーラーを演奏(トップサイドに居ます)

リヴィニウス先生のこと

リヴィニウス先生のご指導はいつも核心的で、すべて見通されているような気持ちになります。師事したばかりの1年目はテクニックを総ざらいし、演奏にいかし切れていないことを指摘されました。2年目はフレージングや表現のアイデアなどに焦点が絞られ、自分の解釈と自分の音楽の大切さを学びました。3年目の今は、全体として浄化させることを目指しています。「自分の解釈で自分の演奏を」という先生のご指導は、ずっと私の心に響いています。

リヴィニウス先生のレッスン風景

レッスン後に先生と

近い将来の目標

2018年6月に渡独してから3年、リヴィニウス先生に師事してから2年が過ぎました。コロナ渦でも、ベートーヴェン、バッハ、ブラームスなどの音楽家を輩出した地に留まり勉強を続けられたことはとても恵まれていると思います。
数年前まではドイツ、ロシア、フランスで勉強したいと漠然と考えておりましたが、今は明確になりつつあります。次はロシアでチャンスを見つけ、チャイコフスキーやショスタコーヴィチが生活した地で学んでみたいです。そのためにも日々研鑽を積み、音楽と真摯に向き合ってまいります。

大学のホームページより

学校の近くに部屋を借り自炊しています

森田啓佑(Keisuke Morita)さんプロフィール

  • 1997年 埼玉県 行田市出身
  • 2007年 第7回泉の森ジュニア・チェロ・コンクール小学生の部にて最年少で金賞
  • 2012年 同コンクール中学生の部で金賞
  • 2013年 特待生として桐朋女子高等学校音楽科に入学
  • 2014年 高校2年時に第68回全日本学生音楽コンクール第1位、日本放送協会賞、及び第83回日本音楽コンクール第1位、徳永賞、黒柳賞、岩谷賞を受賞し、史上初めて同年2冠を達成する
  • 2017年 第27回青山音楽賞新人賞、パブロ・カザルス音楽祭アカデミー・コンペティション第1位
  • 2018年 第45回日本ショパン協会賞、第14回ルーマニア国際音楽コンクール・グランプリ、聴衆賞
  • 2019年 桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマ・コースを首席で卒業、ドイツ・ザール音楽大学ソリスト科に満点で編入
  • 2021年 ジョルジュ・エネスク国際コンクール セミファイナリスト
    これまでに佐藤明、倉田澄子、常光聡、宮田大の各氏に師事
    現在はザール音楽大学大学院にてグスタフ・リヴィニウス氏に師事
    関西にゆかりのある楽師の家系で、篳篥奏者の東儀俊慰(としやす)を高祖父に持つ

オフィシャルサイト https://keisukemorita.com/

<今後の演奏会の予定>

  • 2021年11月12~14日 ロッケンハウゼン現代音楽祭 @ドイツ
  • 2022年2月13日 アクト・ニューアーティスト・シリーズ2021 @アクトシティ浜松
  • 2022年2月17日~3月21日 Japan National Orchestraツアー
  • 2022年3月5日 スズキメソードの若きチェリストたち リサイタルシリーズ2020(延期公演) @東京オペラシティ