
特に優れた才能や資質を持つ生徒に、より専門的な指導や演奏力向上の機会を提供するべく、M.ロストロポーヴィチ氏の提唱で1988年に開設されたヤマハマスタークラス。30年以上の歴史の中で世界的な音楽家を多数世に送り出し、高く評価されています。この「ピアノ特別コース」の在籍生による年に一度のピアノコンサートが、2023年4月9日(日)、ヤマハホール(東京都中央区)で開催されました。出演した5人は、それぞれに真摯な姿勢で向き合ってきた日頃の学習成果を、余すことなく披露していきました。
コンサートは太田朝日さん(14歳)の、ショパン『夜想曲』で幕開けとなりました。優美なメロディを歌うように響かせたあとは、プロコフィエフの『ピアノソナタ第1番』へ。初期の作品に見られる豊かな情感を、緩急をしっかりと表現したドラマチックな演奏で聴かせていきました。時に見せたダイナミックさも印象に残ります。
萩原麻理子さん(15歳)はラヴェルの『クープランの墓』より4曲を披露しました。立体的な響きが瑞々しい『プレリュード』から、『リゴードン』では生き生きとしたテーマと中間部の厳かな雰囲気の対比を繊細に表現していきます。さらに静ひつな『メヌエット』では心地良い緊張感を保ちながら終曲『トッカータ』へと誘い、この曲の魅力であり難関でもある同音連打の技巧的な要求にも的確に答えていきます。テクニックに終始することなく、情緒豊かな音色をたっぷりと味合わせてくれました。
3番目にステージに登場したのは新田雛菜さん(18歳)。スクリャービンの作品から3曲を選びました。まず丁寧に1音1音を紡ぐように『2つの詩曲 作品32』の『第一曲』を奏で、その独特の和声感をホールに静かにたゆたわせました。『第二曲』では力強さを感じさせ、その対比の鮮やかさは目を見張るほど。続く『練習曲 作品8-2 嬰へ短調』ではフレーズが呼応するような変化をスリリングに展開し、最後の『ピアノソナタ 第4番 嬰へ長調 作品30』に移ります。2楽章からなるこの曲を、高音域から低音域まできらびやかに表現。熱量のある演奏で観客を惹き込みました。
休憩を挟んでの後半は、今回の出演者の中で最年少である高宮奈月さん(10歳)の演奏から。6つの舞曲からなるバッハの『フランス組曲 第3番 ロ短調 BWV814』を、各曲の特徴を明確に浮かび上がらせて演奏していきます。バロックらしい謹厳な雰囲気を表しながら、軽快な終曲まで高い集中力で奏で上げました。