
1988年の開設以来、ヤマハ音楽教室の生徒の中でも特に優れた才能や資質をもつ人を対象に指導を行い、数多くの演奏者を世に送り出しているヤマハマスタークラス。延期となっていたピアノ特別コースの在籍生8人によるコンサートが、2020年11月29日(日)にヤマハ銀座コンサートサロン(東京都中央区)で行われました。今年は新型コロナ感染予防対策のため来場者数を制限した上での開催でしたが、日頃の研鑽の成果をそれぞれが演奏で披露しました。
最初の演奏者は、太田朝日さん(12歳)。メンデルスゾーン『無言歌集』からの3曲をやさしい温かな音色で奏でます。『信頼』は、ロマンティックなメロディを甘く、『後悔』はかげりのあるメロディを美しく。そして『詩人の竪琴』では、なめらかな左手の伴奏型の上に流れるメロディをくっきりと際立たせて演奏しました。
次は、フォーレ『夜想曲第5番』を演奏した萩原麻理子さん(12歳)。シンコペーションの伴奏にのって、高音部までかけのぼっていく演奏的なメロディから一転、中間部では現実的でエネルギッシュな力強い演奏を聴かせ、表情の変化を楽しませてくれました。
ショパン『舟歌』を演奏したのは佐野瑠奏さん(16歳)。水辺で小舟がゆったりと揺れているような左手に、小さなさざ波のように右手のトリルが響き、次第にクライマックスへ。そして再び静寂が訪れる。華やかさの中にもふっとした陰も感じさせる、表情豊かな演奏でした。
前半の最後は、寺田雅さん(19歳)のショパン『24の前奏曲』からの9曲。情緒的でゆったりとした感じの『第1番』で穏やかに幕を開け、軽やかな『第3番』、悲しみの色にあふれた『第4番』など、1曲ごとに音色や表情を変化させていく演奏がみごとでした。特に怒涛の叫びが聞こえてくるような『第16番』や、ドラマティックで壮大な曲の最後に、低音の「レ」の音を左手のこぶしでたたきつけるように連打して終わった『第24番』の演奏はインパクトがありました。
休憩後のトップバッターは、ラモー『クラヴサン曲集』から3曲を選んだ福本真悠さん(17歳)。『ファンファリネット』は軽やかなトリルが、かわいらしく愛らしい女性が宮廷で踊っている姿をイメージさせます。『ロンド―形式のミュゼット』は、左手の低音がバグパイプのように響き、のんびりと牧歌的な雰囲気。『3つの手』では、2本の手で3声部を弾き分けるためにひんぱんに左手と右手を交差しながら、ていねいに各声部のメロディを歌わせていました。
続く新田雛菜さん(16歳)のラヴェル『水の戯れ』は、高音部がキラキラと輝く様子が幻想的で、ぐいぐいと音楽に引き込まれていきます。新田さんの演奏からは、氷のように冷たく、硬質な水が自由自在に形を変えて流れていくように感じられました。
小田島薫子さん(16歳)は、シューベルト=リスト『12の歌』より2曲を演奏。『春のおもい』は、抒情的なメロディを甘くロマンティックに歌い上げ、『水の上で歌う』は、さざ波のように悲しみや不安が押し寄せるなか、最後には華やかの音で幸せな光に満ちていく感じを表現していました。
最後を飾ったのは、上原悠さん(17歳)の演奏で、ラフマニノフ『楽興の時』からの4曲。最初の1音からすっと音楽に入り込み、低音の響きの上にキラキラとしたメロディが流れ、ダイナミックな響きへと変化する『第1番』、聴くものをあおるような速いパッセージで駆け抜ける『第2番』、穏やかで幻想的な『第5番』を弾き、迫力とエネルギーに満ちた華やかな『第6番』でフィナーレにふさわしい演奏をしめくくりました。
Photo:MAKOTO HIROSE