ヤマハ音楽支援制度は2010年度より「地域音楽活動支援」をスタートし、地域への音楽普及や音楽文化向上の視点で演奏や創作の活動に取り組む音楽グループ・団体への支援を行っています。2015年度も、幅広いジャンルと活動でいずれも活発に音楽の素晴らしさを地域に伝える76件が対象となりました。 今回は下記団体の活動リポートをご紹介します。
- ・団体名:東北農民管弦楽団(青森県弘前市)
- ・協 力:ト―オー楽器
- ・実施日:2016年2月14日(日) 仙台市広瀬文化センター
- ・活動内容:「東北農民管弦楽団第3回定期演奏会」
この活動は、団の代表が以前農業研修中の時代に「北海道農民管弦楽団」(牧野時夫代表)の演奏会に2回参加させていただいた経験がもとになっています。東北にもぜひ農民管弦楽団を作りたいという思いから、2013年の「北海道農民管弦楽団花巻公演」に合わせて「東北農民管弦楽団」を立ち上げ、合同で演奏をすることになったのが始まりでした。
2014年に弘前市で結成記念演奏会、2015年には花巻市で第2回定期演奏会、そして今回、仙台市で第3回定期演奏会を行いました。
オーケストラのメンバーは、農家はもちろん、農業高校や大学農学部の学生さん、農協職員、お米屋さん、農学研究者の方、獣医さん、肥料会社の方などで構成されています。団員はすべて農業関係者であること、また演奏曲は「宮沢賢治」か「農」に関する曲であることの2点を基本としています。
普段の活動は、基本的に毎年農閑期の冬のみですが、10月に顔合わせをし、それから月に2~3回のペースで花巻市に集って練習をし、翌年の2月~3月にかけて演奏会を開催します。東北全域にメンバーがいるため、なかなか毎回の練習に参加できないこと、またそのための交通費がかなりの額になってしまうことが活動をする上での悩みの種ですが、演奏会では、いつも温かくとても大きな反響があること、確実にファンの方が増えていることがとても励みとなっています。また、演奏会直前に2泊3日の合宿集中練習を行ってそのまま演奏会本番になるのですが、この合宿がとても楽しく、これこそが東北農民管弦楽団の楽しみでもあるといえます。
今回の演奏会では、ちょうど1年前に、ピアニスト館野泉さんの弟・館野英司さん(今回の指揮)から、「館野泉とヤンネ館野(泉さんのご子息でヴァイオリニスト)のために作曲された『星巡ノ夜』という宮沢賢治に関連した曲があるが団で演奏してみませんか?」というオファーがあり、それが実現しました。
演奏会は600人のホールが満員で、当日券を購入できない人も出るほどでした。 プログラムは、『「詩人と農夫」序曲』(スッペ作曲)、『星巡ノ夜』(平野一郎作曲)、『交響曲第9番「新世界より」』(ドヴォルザーク作曲)でしたが、1曲目からブラヴォー!と割れんばかりの拍手で素晴らしい雰囲気でした。 休憩時間に団員の農産物をロビーで販売するのですが、ほぼ売り切れでこちらも大盛況。演奏会後のアンケートも大絶賛の声を多くいただき感謝しています。
今回は『星巡ノ夜』という初演作品で、音楽的にも非常に高いレベルの演奏技術が求められ、果たして出来るのだろうかという責任感とプレッシャーが相当ありましたが、ソリスト・指揮者・作曲者の皆さんの本当に温かい応援と励ましにより無事終えることができました。我々にとっては「清水」の舞台から飛び降りる以上の大きな挑戦でしたが、その何倍もの大切な宝物を得ることができた演奏会でした。演奏しながら何度も涙が溢れました。このような感動的な演奏会に演奏者として参加できたということだけで、心からうれしく思っています。
今後もお客様に、宮沢賢治が目指して志半ばで実現できなかった、農民による芸術(音楽)を届け続けていきたいと思います。 また、東北6県で定期演奏会を開催した後、2019年の日本とチェコスロヴァキア国交樹立100周年の年に、ぜひチェコ公演を実現させたいと思っています。チェコは『チェコ農民讃歌』も作曲し、農民をこよなく愛したドヴォルザークを生んだ国でもあり、そして宮沢賢治もドヴォルザークの「新世界より」を愛聴したという縁からも、「東北農民管弦楽団」結成以来の念願です。