ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。 今回は2016年度の支援対象者で、現在、ベルリン芸術大学でピアノを専攻されている 佐藤元洋さんにお話を伺いました。
プロフィール:佐藤元洋(サトウ モトヒロ)ベルリン芸術大学/マスター課程第3ゼメスター在籍/ピアノ・ソリスト専攻
1993年生まれ、静岡県掛川市出身
ピティナピアノコンペティション、A1・B・D・Fの各級において金賞をはじめ特別賞など多数の賞を受賞
ショパン国際ピアノコンクールin Asiaにて、小学5・6年生部門金賞、中学生部門金賞及び特別賞、高校生部門銀賞をそれぞれ受賞
全日本学生音楽コンクール中学生部門第1位及び特別賞、高校生部門第3位
大阪国際音楽コンクールピアノAge-E部門1位及び特別賞、Age-G部門2位(1位なし)
第18回夢コン~ピアノ・コンチェルト・フェスティバル~最優秀演奏賞グランプリ
第12回浜松国際ピアノアカデミーコンクール5位入賞
第16回松方ホール音楽奨励賞受賞
第11回東京音楽コンクール入選、第12回同コンクール第2位
2017年アルトゥール・シュナーベルコンクール第3位
テレビ朝日「題名のない音楽会」出演。 日本各地のほか、ソウル、ワルシャワ、パリ、ベルリンなどで演奏会に出演。また日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、藝大フィルハーモニア管弦楽団ほかと共演。これまでに水野儀江、長谷川淳、清水将仁、伊藤恵の各氏に師事。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て、東京藝術大学を卒業。卒業に際し、アカンサス音楽賞、藝大クラヴィーア賞、同声会賞を受賞。現在はドイツ・ベルリン在住、ベルリン芸術大学ソリストマスター課程に在籍し、ビョルン・ レーマン教授のもとで研鑽を積んでいる。
ベルリン芸術大学での勉強
レッスンは、ソロの実技と室内楽の2つで成り立っています。1年目はこれに加えドイツ語を学ぶ授業がありましたが、ピアノと向き合うことに集中できるカリキュラムになっています。学校以外の自由な時間が多いので、練習はもちろん、その他さまざまな面から刺激を受け、感性を磨き、音楽につながる「勉強」をすることができます。特に演奏会には、日本にいたころとは比べ物にならないほど足を運ぶことができています。一流の音楽家たちの、その姿と音楽を目の当たりにして、心を動かされたり考えさせられることが数多くあります。
支援制度応募のきっかけ
周囲の先輩や友人が支援を受けており、高校時代から支援制度のことは知っていました。
留学奨学支援はベルリン芸術大学への受験を決めた段階で応募し、直後に採用となりました。
家族と音楽の関係、音楽(ピアノ)を始めたきっかけ
私の祖父は高校の音楽教師、祖母は歌とピアノを教えており、祖父母の家では特にクラシック音楽に親しみやすい環境でした。両親は音楽に関わる仕事はしていませんでしたが、幼少期には習い事としてピアノを弾いていたそうで、家にはピアノがありました。
私自身がピアノを始めたのは、3つ年上の姉が習っていたのに影響されたことがきっかけでした。姉が参加したピアノ発表会を見て、自分もあんな風にピアノを弾きたい、あのステージに立ちたい、そんな羨ましさや舞台への憧れを感じたことを記憶しています。その後3歳ごろから、当時姉が通っていたヤマハ音楽教室の教材を、母に教えてもらいながら家で弾き始めました。
音楽教室での姉のグループレッスンもよく見学していて、その楽しそうな様子に、その後私自身も(既に姉の教材を見終わっていたのですが)実は半年間だけ幼児科に通っていました。
私は昨年夏に出身地である静岡県掛川市より「輝くかけがわ応援大使」の委嘱を受けました。
ヤマハピアノのふるさとでもある掛川のことも世界に発信できたら思います。
印象に残った経験、先生、レッスン
幼少の頃から、コンクールや演奏会などでさまざまなステージに立たせていただき、またマスタークラスなどでは多くの音楽家のレッスンを受けさせていただきました。これらはどれも貴重な経験であり、今の自分の財産でもあります。特に強く印象に残っているのは、中学1年生の時に参加した浜松国際ピアノアカデミーです。故・中村紘子先生のエネルギー溢れる演奏と御指導や、ミシェル・ベロフ氏の的確で鮮やかなレッスンなど、一流の音楽に触れられる日々。また世界中から集まる同世代のピアニストとの交流や、ピアノ選びから始まるコンクールなど、どれもそれまで経験したことのない世界でした。
それからおよそ10年、今こうしてドイツで勉強していることは感慨深いです。こちらで師事しているビョルン・レーマン先生は、深い知識と豊かな感性で説得力のあるレッスンをしてくださり、本当に良い勉強をさせていただいていると感じます。
ベルリン・フィルハーモニーホールでの演奏会はいつも満員の聴衆で熱気に満ちています。
影響を受けた音楽家・ミュージシャン、好きな音楽
高校・大学の7年間じっくりと御指導いただいた伊藤恵先生からは、本当に大きな影響を受けました。先生として、私に足りないものを根気強く教えてくださることはもちろん、演奏家としての姿から多くを学ばせていただいています。作品と真っ向から向き合い、作曲家に敬意を持ち、何より音楽を愛すること…私たちが忘れてはいけないことだと思います。
ベルリンに来てから数多くの演奏会に足を運びましたが、留学最初の頃に聴いたラドゥ・ルプーは忘れられません。静寂の中から生まれる音楽、美しい音。ホールにいる皆が違う世界に連れていかれた、そんな2時間でした。それからは、彼のベルリンでの演奏会は逃さず聴きに行きます。
また、あまり詳しくはありませんが、クラシック以外の音楽にも親しんでいます。日本のアーティストでは、中島みゆきさんをよく聴きます。彼女の言葉と音楽に対する向き合い方、アーティストとしての姿勢には尊敬の念を抱いています。ヨーロッパにいても聴いては励まされ、上京して以来毎年公演を観に行き感化されています。
美しい自然もヨーロッパの魅力のひとつです。
今後目指していきたい音楽
ドイツのとある街で演奏会を開いたとき、聴いてくださった方から「作曲家がそこで弾いているかのような感覚になった」という感想をいただいたことがあります。「ああ良かったな」と思いました。世界には、強い個性で圧倒する音楽家がたくさんいます。音符を音として生み出すのは自分ですから、もちろん自分らしさは必要です。しかし、作曲家が遺した楽譜には、彼らがその時に見た景色、イメージ、感情などあらゆるものが詰まっています。それらに強く共鳴し、共有できるような音楽をしたい、そしてそれを自分の音楽の個性としたいという思いがあります。多くの作曲家が生きたヨーロッパに暮らしてみて、より強くそう思うようになりました。
今後経験したい事、やってみたいこと
こうしてヨーロッパで生活する貴重な機会をいただいているので、今ここでしかできないことを、引き続き積極的に経験したいです。いろいろな街へ行き、マスタークラスやコンクールを通して、多角的に勉強して今後の糧にしていきたいです。またこちらでも、そして日本でも、より多くの演奏の機会を得られるように努力を続けます。今後音楽家として自立していける術を身につけていきたいと思っています。
※演奏会のお知らせ
佐藤元洋さんが来る3月10日(土)武蔵村山市民会館大ホールにおいて、梅田俊明指揮、東京交響楽団とベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』で協演します。詳しくはこちら。