ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。
今回は2019年度の支援対象者で、現在、東京藝術大学音楽学部器楽科ヴァイオリン専攻3年に在学中の辻 純佳さんにお話を伺いました。
プロフィール:辻 純佳(ツジ スミカ)
1998年生まれ、愛知県岡崎市出身。3歳よりヴァイオリンを始める。
2016年 「第31回国民文化祭・あいち2016」にて刈谷市総合文化センター管弦楽団と共演
2018年 「第5回刈谷国際音楽コンクール」弦楽器部門・一般の部 準グランプリ受賞
2019年 学内選抜による「第45回藝大定期室内楽」に出演
2019年 「Festival Academy Budapest」修了、期間中各地にて室内楽コンサートに出演
2019年、2020年「東京・春・音楽祭」に春祭特別オーケストラとして参加
2020年より、幸田町文化振興協会 アウトリーチ環境整備事業登録アーティスト
これまでにヴァイオリンを石川尚子、高橋孝子、故石田なをみ、漆原朝子、松原勝也の各氏に、室内楽を中木健二、玉井菜採、吉田有紀子、山本美樹子の各氏に、バロックヴァイオリンを戸田薫氏に師事
名古屋市立菊里高等学校音楽科を経て、現在東京藝術大学音楽学部器楽科3年に在学中
ソロを中心に、室内楽やオーケストラにも積極的に取り組んでいる
音楽を始めたきっかけ
両親とも音楽との関わりは特にありませんでしたが、母は子どもには音楽に触れさせたいという憧れがあったそうです。姉に付いて近くの教室でヴァイオリンを始めました。中学までは勉強や学校行事、部活と同じようにヴァイオリンも続けていましたが、中学3年生のときに音楽の道に進むことを決めました。
印象に残った経験、先生、レッスン
音楽高校に入学し、身近に音楽に向き合う仲間ができたことで、練習時間が自然と格段に増えました。しかし、今振り返ってみると、高校時代は練習に練習を重ねて、時間をかけることに重きを置いていたとも思います。
大学生になり憧れの漆原朝子先生の門下生になれた嬉しさとともに、あらためて音楽について考えるようになりました。また、松原勝也先生に師事したことは現実的な演奏をしがちな私に、新しい角度からの気づきを与えてくださいました。音楽に対するさまざまなアプローチを発見し、音楽の持つ見えない大きな力を感じることに繋がっています。ぼんやりとしていた自分の目指す音楽をはっきりと描けるようになりました。
さらに、大学の同級生と学んでいる室内楽も大きな存在です。人と合わせることでその瞬間にしか奏でられないものが生まれる醍醐味や新たな発見は、ソロでは味わえない感覚です。
加えて、昨夏初めての海外セミナーに参加したことも転機のひとつです。先生方や他の参加者とゼクステットやオクテットに取り組めたことは、音楽への新しい見方や柔軟な表現を学ぶ良い経験となりました。街を歩いてみたり、教会や美術館に足を運んでみたり、日本では味わえない有意義な2週間でした。
影響を受けた音楽家、好きな音楽
現在師事している漆原朝子先生が私の憧れです。地元での先生のリサイタルを拝聴し、作曲家の遺志を届ける温かい音楽に非常に感銘を受け、先生のもとで勉強したいと強く思い、高校2年の終わり頃に初めてレッスンに伺いました。先生の気の満ちた身体と楽器が自然に一体化し、その空間や聴衆の息遣いまでに気を配りながら演奏する姿勢や、演奏へ向けた日常生活や身体的状態の整え方など、すべてにおいて音楽に対する姿勢を尊敬しています。また、親身になって相談に乗ってくださり、いつも私を導いてくださる尊敬してやまない素晴らしい先生です。
師事した先生だけでなく、ヒラリー・ハーン、フランク・ペーター・ツィンマーマン、オレグ・カガンなど憧れる演奏家はたくさんいますが、最近はイザベル・ファウストの演奏を好んで聴いています。特にモーツァルトやベートーヴェンなどの古典の音楽で、コントロールされたヴィブラートによる自然な音色づくりに魅力を感じています。
今後どんな音楽をしていきたいか
1年前から、音楽療法やアウトリーチを学び始めたことで、音楽の届け方を深く考えるようになり、音楽の持つ大きな可能性をより多角的に感じるようになりました。私が音楽をする意味や、音楽の力とは何かを探し求める毎日です。
そして今の目標は、作曲家の頭の中で広がっていた世界に、自らの理解や今を生きる力を込めて、空間を伝わって聴いてくださる方の心に響き震わせるような音楽をすることです。専門的に音楽を勉強するということは、感覚的なものだけではなく、歴史的背景、楽器と身体の関係などを学んだ上で、自分なりの音楽を常に求めていくことが必要だと思います。しかし、言葉では表すことのできないものを表現できるのが音楽だと感じるからこそ、音楽を届けるときには技術を超越した、心から心に伝わる音楽を模索し、これからも多角的に自分の理想を追求していきたいです。
今後チャレンジしたいこと、近い将来の目標
音楽の道に進むことを決めたときからオーケストラの一員になることが夢です。音楽の大きな圧力と充実感を持ち、幅広い表現を感じられる壮大な空間で演奏することは、私にとってとても魅力的です。そして室内楽においてもさまざまな編成で経験を積みたいです。今初めて生まれたような音を出せたり、仲間と作り上げる楽しさを感じられたひとつの大きなきっかけでもあるからです。
アウトリーチもさらに経験を積みたいと考えています。研修を受けたり小学校での実践を経て考えるようになったことが、私の中での音楽がより深く大きなものとなったと感じています。特別支援学校での子ども達との出会いや一緒に過ごした時間も忘れられない経験です。今後介護施設や特別支援学校でのホールなどに出掛けるのが難しい方へも提供する活動も視野に入れたいです。
結果が出せなかったり、まだまだ経験不足な部分も多く、焦り悩むこともあります。しかし、自分には音楽という何よりも強い味方を得たことに自信を持ち、多くの方の支えにより勉強を続けられていることへの感謝を忘れず、これからも“ゆるぎない努力”をモットーに精進したいと思います。