ニューヨークを拠点に活動する作編曲家の挾間美帆さん。3作目のアルバム「ダンサー・イン・ノーホエア」が第62回グラミー賞最優秀ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門にノミネートされたほか、オランダ、デンマークのオーケストラの指揮者就任など多彩な活躍を続けています。
日本国内では2020年11月に発売された今井美樹さんのアルバム「Classic Ivory」に編曲家として参加、その魅力的なアレンジが話題となりました。ヤマハ音楽教室出身でもある挾間さんに作編曲家としての活動やヤマハでの思い出についてうかがいました。
編曲で参加された今井美樹さんのアルバム「Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST」でのお仕事はいかがでしたか
今井さんは音楽へのこだわりをきちんと持っていて、リリースから20年以上経た曲を新たに録音するにあたり選曲をどうするか、どのように歌うかなどをじっくりと考え、時には悩みながら進めていらっしゃいました。私もその思いを少しでもくみ取ってより良い作品にしたいという気持ちになりました。初めてお会いした時からとても気さくに接してくださったのですが、そうした気遣いがご自身の音楽性や音楽活動に反映していらっしゃる素晴らしいアーティストだと思います。
編曲にはどのように取り組まれましたか
「ザ・クラシックといったスタイルではなく、ジャズのイメージがするものにしたい」というご希望をいただいたので、ひととおりスコアを書いてみてイメージどおりの音が鳴るかを確認しながら進めました。私の他にも千住明さん、服部隆之さんなど著名な作曲家がアレンジに参加し、それぞれの持ち味が作品の中に活かされたアルバムになっています。
編曲は作曲とは違って元の曲があり、クライアントの希望も取り入れながら考えていくのでゼロから好きなものを作っていいわけではありません。私はよく「作曲は狭く深く、編曲は広く浅く」と言っているのですが、作曲よりもできるだけ広い視野で柔軟に取り組むようにしています。編曲にはあまり悩むことはないので楽譜を書く時間は短いほうですが、そのかわり「このようにしたい」というクライアントのイメージや要望をたくさん受け取っておく必要があり、実際の作業に入るまでの打ち合わせや準備などには時間をかけました。
アメリカを拠点に海外でもさまざまな活動をしていらっしゃる中で、日本との違いを感じることはありますか
はい。例えばニューヨークはミュージシャンのレベルが桁違いに高いので、パッと新しい試みを取り入れて音を出した時に新鮮な発見があったり、とてもやりがいを感じますね。想像を超える素晴らしい仕上がりや驚きに出会えることも多いです。でもこちらが思っていることをかなりストレートにハッキリ言わないと伝わらないので、気を遣わずに進めていくようにしています。
日本ではコミュニケーションに配慮が必要ですが、日本のミュージシャンはこちらが何を思っていてどうしたいかということへの理解力が高いので、ここに何があってどう音楽が成り立っているかが伝われば、それ以上あまり細かく言わなくてもわかってもらえるという印象です。そういった意味で日本では丁寧に音楽を作れますね。
3歳の頃からヤマハ音楽教室に通っていらしたそうですね
小さい頃からオーケストラのスコアを見てエレクトーンで独奏できるように自分で弾き方を考えたり、コードの知識を身につけたり、いろいろなジャンルの曲との出会いもヤマハでのレッスンがきっかけでした。ヤマハで学んだことが全て現在の活動の源になっています。アンサンブルもたくさん経験したおかげで、協調性が身についたと感じています。みんなで音楽をまとめていくことを通じて日常生活でも人とのコミュニケーションを上手くとれるようになりました。
今、ヤマハに通っているお子さんたちには、例えばリコーダーは苦手だけれど太鼓は好き、そんなふうでもいいから「自分が好きなのはこれだ」というものを見つけて欲しいですね。プロにならなきゃいけないとか何かをやらなければとかそんなことは気にせず、楽しく音楽が一生できたらとても幸せなことだと思います。
最後に、今後の活動やご予定について教えてください
オーケストラでジャズ音楽を演奏するコンサート「NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇」(東京芸術劇場主催)を一昨年からプロデュースしているのですが、ライフワークとして今後も携わっていきたいと考えています。オーケストラで演奏するジャズスタイルの音楽は有名なガーシュウィンの他にも、まだあまり知られていない隠れた名作がいっぱいあって、そうしたたくさんの作品がもっと演奏されるといいなと思います。
海外では、一昨年デンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者、昨年にはオランダのメトロポール・オーケストラの客演常任指揮者に就任しました。自分だけで音楽をやるよりも、演奏者のために何をプロデュースできるか、どんな形が一番彼らにも私にとっても楽しいのかを考えて、焦らずに長い目で見てよいものを生み出すことのできる活動を続けていきたいです。
国立音楽大学およびマンハッタン音楽院大学院卒業。これまでに山下洋輔、東京フィルハーモニー交響楽団、ヤマハ吹奏楽団、NHKドラマ「ランチのアッコちゃん」などに作曲作品を提供。また、坂本龍一、鷺巣詩郎、NHK交響楽団、テレビ朝日「題名のない音楽会」などへ多岐にわたり編曲作品を提供する。
2012年、『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』リリースによりジャズ作曲家として世界デビューを果たす。2016年には米ダウンビート誌の「未来を担う25人のジャズアーティスト」にアジア人でただ一人選出され、2019年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100」に選ばれるなど高い評価を得る。3作目のアルバム『ダンサー・イン・ノーホエア』は、2019年米ニューヨーク・タイムズ「ジャズ・アルバム・ベストテン」に選ばれ、米グラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンンブル部門ノミネートを果たす。
2017年シエナ・ウインド・オーケストラのコンポーザー・イン・レジデンスに、2018-19年オーケストラ・アンサンブル金沢のコンポーザー・オブ・ザ・イヤー、2019年よりデンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者、2020年よりオランダの名門ジャズ管弦楽団であるメトロポール・オーケストラ(Metropole Orkest)の客演常任指揮者に就任。