研究活動支援対象者の活動レポート

音楽聴取時の集中・リラクゼーション評価のための脳血流時系列パターン解析千葉大学大学院工学研究科 岩坂正和 准教授 インタビュー2008年10月14日 取材

聴覚野の活性化は、前頭葉の血流量の低下につながりがある

今回の研究は、仮説の段階で得ていた前頭葉の血流量が低下する現象を、音楽経験や年齢などが異なる幅広い被験者を対象に、より多くのデータを収集して実証することを目指しました。それから、実際の被験者にアンケート調査を行い、音楽を聴いて実際にどのように感じていたかということと、血流量の変化における対応関係を調べました。

岩坂: 今回の実験の結果、これまで立ててきた仮説を裏付けることができました。残念ながらリラックスなのか集中なのかは曖昧のままでハッキリさせることができなかったのですが、聴取深度つまりどのくらい聞き込んでいるかということが、前頭葉の血流量の低下に結びついていることが分かりました。

また、並行して聴覚野についても計測しました。今回の助成研究の前に、聴覚野のある側頭葉の血流量が増えるときに前頭葉の血流量が減る、という現象を発見していたのですが、今回の測定結果から聴覚野の活性化と前頭葉の血流量の低下が強いつながりがあることが分かりました。この現象をモントリオール・マギル大学のザトーレ教授に見せたところ、大変興味をもってもらえました。学術的な新しい見解として、今後につなげていきたいと思います。

聴取者だけではなく演奏者の血流量測定も、今回の研究では実施されました。さらに、科学と芸術が融合する場面を一般向けに普及させる草の根運動のひとつとして、「光による脳活動計測演奏会」を開催。プロの演奏家を対象とした計測を実施しました。このような研究姿勢や成果が評価され、2007年11月にヤマハ音楽研究所でも計測会を行うに至りました。

岩坂: 計測を重ねた結果、自分で音楽を演奏した人も、流れている音楽を聴取しただけの人も、似たような結果が出ることが分かってきました。しかし、演奏中の演奏者がリラックス状態にあるのかという点はまだ分析中で、別に研究を進めている段階です。

(左)ある現代音楽作曲家による楽曲を演奏したトリオの方々(バイオリン、ピアノ、クラリネット)のそれぞれの前頭葉における脳活動に伴う血流パターン。
(右上、右下)脳血流測定装置

それぞれの演奏者の脳血流ダイナミクスを約9分の演奏中に得ました。得られた知見の概要は、以下の通りです。

  • 曲の後半でのピアノとバイオリンのかけ合いによって、左右前頭葉での酸素化ヘモグロビン量変化が、ピアノとバイオリンの演奏者間で逆相に同期する箇所が見られた。
  • ピアニストの酸素化ヘモグロビンのピーク(最大値を示す山)の位置(時刻)は、曲の終盤での楽節構造に一致した。
  • 演奏中、ピアノでは前頭葉全般での血流レベル低下が生じ、バイオリンでは前頭葉の顕著な血流レベル低下は生じなかった。この結果は、これまでの本研究者らが積み重ねてきた実験の知見と一致した。なお、クラリネット奏者の前頭血流レベルの計測において、演奏開始とともに鍵盤楽器と同様のなだらかな血流レベル低下を示した。
  • バイオリンにおける左右の手の動かし方の非対称性により、酸素化ヘモグロビン増加の生じた可能性が指摘された。この知見は、これまでの弦楽器演奏で得られた前頭葉での結果と合致した。
  • クラリネット奏者の脳血流において、楽曲のある部分で数秒~数十秒間隔で山型の酸素化ヘモグロビンのダイナミックな変動パターンが見られた。