研究活動支援対象者の活動レポート

演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性
−個人差とその要因の実態調査−和歌山大学大学院 システム工学研究科 松井淑恵 助教 インタビュー2015年10月09日 取材

和歌山大学の大学院システム工学研究科で、聴覚末梢の情報処理の観点から音楽心理学の研究を進めている松井淑恵助教(以下、松井助教)。同じく音楽心理学の研究に携わる電気通信大学の饗庭絵里子助教(以下、饗庭助教)と、2人で進めていた研究「演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性」が、2014年度研究活動支援の対象になりました。今回はその研究内容や実験結果について、和歌山県和歌山市にある和歌山大学で、お話をうかがいました。

演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性が生まれる要因を解明したい

もともとは、同じ京都市立芸術大学のピアノ科に在籍し、大学院でも同じ研究室で音楽心理学・音響心理学の研究に取り組んできた松井助教と饗庭助教。近い経歴を持つ2人ですが、ピアノ演奏者として、ピアノの演奏にいたるまでの取り組み方に正反対の特徴があり、それが今回の研究テーマに興味を持つきっかけとなったそうです。

松井:私は、初めて読む楽譜を練習なしに演奏する「初見演奏」が苦手で、CDなどで聴いた音楽を演奏で再現する「耳コピー演奏」が得意でした。一方、饗庭さんは初見演奏が得意で、耳コピー演奏が苦手でした。演奏という形で同じようにアウトプットできるのに、インプットの得意・不得意は異なります。このことから、インプットされた情報が演奏という運動へとつながる経路は、人それぞれ違うのではないか、と考えるようになりました。

饗庭:私は7年間、子どもにピアノを教えていました。そのとき出会った教え子の中に、楽譜が全く読めない子がいましたが、こちらが一度弾いてみせたり、正しい演奏を録音して聴かせてみたりすると、すぐに弾けるようになるのです。逆に、楽譜をしっかりと読めるのに、耳コピー演奏が得意ではない子もいました。幼いころから顕著な違いが出ているケースを目の当たりにして、このような特徴が生まれる理由をずっと知りたいと考えていました。

松井淑恵 助教

饗庭絵里子 助教

これに似た特徴は音楽以外でも見られます。例えば、英語の単語や文章を唱えて覚える人がいれば、書いて覚える人や読むだけで覚えられる人もいます。このように、成長の中で視覚入力・聴覚入力の優先性が顕著になるケースは多く見られますが、そこにどのような要因が影響しているのかは不明でした。

松井:目から情報をインプットするのが得意か、耳からインプットするのが得意かは、人によってそれぞれ異なります。そこで、どのような要因でこうした特徴が生まれるのか、そして、どのような過程でどちらかが得意になっていくのか、両者に相関関係はあるのか、などを明らかにしたいと思いました。

今回は、ほかの楽器よりも楽譜に音符が多く、学習の際に視覚のウエイトが大きいピアノを対象として設定。まずは、ピアノ演奏に関連する内容のアンケート調査を実施して、基礎となるデータを収集するため、ヤマハの音楽支援制度を利用して、多くのピアノ演奏家に協力を求めました。

松井:大阪大学の木下先生をはじめ、私の周辺にはヤマハ音楽支援制度の助成を受けている研究者が何名かいらっしゃいました。私も「ヤマハの支援制度なら、このテーマについて研究できるのでは」と考えて応募しました。