研究活動支援対象者の活動レポート

演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性
−個人差とその要因の実態調査−和歌山大学大学院 システム工学研究科 松井淑恵 助教 インタビュー2015年10月09日 取材

初見演奏・耳コピー演奏の得意・不得意の相関関係などをアンケート調査

アンケートを実施するにあたり、音楽大学や芸術大学の音楽学部や大学院で、ピアノ演奏を専攻する学生および卒業生を対象に、Webサイトと書面で案内して協力者を募集しました。この取材時点で分析対象となったアンケート協力者数は65名で、87%が女性。すべて紙面または電子メールで回答してもらいました。

また、アンケート調査の内容は計43項目で構成。年齢・性別・視力・聴力・身長などの基本情報に加えて、「これまでに受けた音楽教育(ピアノ師事歴・学歴・ソルフェージュ歴)」「これまでの演奏歴(リサイタル歴・コンクール歴・アンサンブル経験)」「ソルフェージュに関する項目(絶対音感の有無)」などについて、当てはまるものを選んでもらいました。

松井:「初見演奏が得意か不得意か」「耳コピー演奏が得意か不得意か」という質問の回答は、1(不得意)、2(どちらかというと不得意)、3(どちらかというと得意)、4(得意)の4段階から選択する方法を用いました。日本人の謙遜しがちな傾向を考慮して、「得意・不得意のどちら寄りか」という相対関係を重視しました。

今回の分析での主な目的は、初見演奏と耳コピー演奏の得意度における両者の相関関係、過去に受けた音楽教育との関連性、暗譜演奏の得意度との関連性を探ることでした。分析結果から、次のような傾向が見られました。

松井:まず、初見演奏と耳コピー演奏の得意度に相関関係はほとんどありませんでした。これは、どちらかが得意なとき、もう片方が得意、あるいはどちらかが得意なときに、もう片方が不得意、という関係ではないことを示唆しています。つまり、初見演奏能力と耳コピー演奏は、それぞれ独立した特性で、個々に強化されるものとだと考えられます。

次に、過去に受けた音楽教育との関連性ですが、幼少時のソルフェージュ教育が影響している可能性があると分かりました。ソルフェージュは楽譜を読むことを中心とした基礎訓練ですが、このソルフェージュの教育方法によっては、耳コピー演奏の得意・不得意に影響があるかもしれないという可能性が見られました。アンケートでは音楽教育をどこで受けたかについても回答を得ていて、十分な回答数を収集できれば教育機関ごとの効果についても傾向が分かるかもしれません。

松井:初見演奏と暗譜の得意・不得意に、相関関係はほとんどありませんでした。一方、耳コピー演奏と暗譜の得意・不得意には弱い相関関係が見られました。音をいったん記憶する必要がある耳コピー演奏が得意な演奏者は、暗譜も得意である可能性が考えられます。また、具体的な楽曲の暗譜にかかる時間も、耳コピー演奏が得意な人ほど少なくて済む傾向が見られました。

図1:アンケート協力者の性別・年齢・ピアノ開始時の年齢・絶対音感の有無

図2:初見演奏・耳コピー演奏が得意か不得意かの回答

図3:高校での音楽コースの経験と小学生でのソルフェージュ教育経験

図4:暗譜が得意か不得意かの回答