研究活動支援対象者の活動レポート

演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性
−個人差とその要因の実態調査−和歌山大学大学院 システム工学研究科 松井淑恵 助教 インタビュー2015年10月09日 取材

並行して行動実験を実施し、自己評価と行動指標が一致するか調査する

アンケート調査については、分析結果の正確性をより高めていくため、今後も継続して実施する方針です。また、ピアノ演奏者の自己評価に基づく分析と並行して、「初見演奏が得意」「耳コピー演奏が得意」と考えているピアノ演奏者に、実際に演奏してもらい、どのような行動を示すのか、自己評価と行動指標が一致するのか、を調査しています。

饗庭:アンケートで回答をいただいたピアノ演奏者の中から、東京在住で、初見演奏あるいは耳コピー演奏が顕著に得意な人を中心に行動実験を実施しています。このとき、できる限り難易度を高めた楽曲を初見演奏してもらっています。被験者をより厳しい状況に追い込むことで、一人ひとり違うストラテジー(演奏方略)が見えてくると考えています。

また、行動実験ではピアノ演奏中の視線を追跡し、楽譜と鍵盤をどのタイミングでどのくらい見ているのかを記録しています。目線の動きには個人差がありますが、その中には個人の特性と共通性が含まれます。それぞれについて観察することが目的です。難易度の高い楽曲を用いた研究は前例が少ないため、ピアノ演奏者である自分たちの観点を駆使しています。

饗庭:現在は初見演奏と耳コピー演奏には、脳の処理経路の違いが関わっているかもしれないという仮説を立てていて、耳コピー演奏が得意な人は、聴覚と記憶を中心に働かせているのではないかと考えています。行動実験での結果次第では、それを神経科学の分野からも研究してみたいと思います。

(右から)松井淑恵助教と饗庭絵里子助教

音を聴かせると脳の運動野が活動したという研究結果は、過去から現在まで複数報告されており、感覚と運動のコネクションがストラテジーに関連するかもしれないという見込みがあるそうです。このことを突き詰めていけば、わずかな行動を測定するだけで、その人が視覚入力・聴覚入力のどちらに向いているかを判別し、その人に適したレッスンを施すことができるなど、より効果的な音楽教育が実践できるようになるかもしれません。

松井:その人に向いている練習法がはじめから分かれば、初期練習の効率が良くなりますし、本人も楽しく練習でき、達成できるレベルが向上するでしょう。楽しんで練習できる人が増え、今よりピアノ人口が増えればうれしいですね。

今回の調査・実験はまだ研究の入り口に過ぎず、2人の計画ははじまったばかり。演奏家の実態解明や音楽教育の支援など、この研究の成果がさまざまな分野で活かされることを期待しています。

支援対象者プロフィール(取材時)

松井淑恵 助教

和歌山大学大学院 システム工学研究科

支援対象研究

課題名
演奏における視覚入力・聴覚入力の優先性
−個人差とその要因の実態調査−
研究期間
平成26年4月~平成27年3月