研究活動支援対象者の活動レポート

リズム感の良し悪しを分ける脳の機能と構造の解明生理学研究所 システム脳科学研究領域 宮田紘平 研究員 インタビュー2018年08月31日 取材

自然科学研究機構 生理学研究所のシステム脳科学研究領域に所属し、人間の協調運動をテーマに研究を進めておられる宮田紘平特任研究員(以下、宮田研究員)。そんな宮田研究員の研究「リズム感の良し悪しを分ける脳の機能と構造の解明」が、2017年度研究活動支援の対象になりました。今回は、この研究テーマに着目したきっかけと、その研究内容について、愛知県岡崎市にある生理学研究所でお話をうかがいました。

巧みに運動をリズムに乗せる脳の仕組みを知りたい

生理学研究所では、2人が同時に運動するときの脳活動を観察し、どの領域が関わるのか、どのような相互作用が起こるのかなど、人間の協調運動をテーマに研究を進めている宮田研究員。学生時代にご自身がダンスに打ち込んできた経験が、人間の運動とリズムの協調に関心を持つきっかけとなったそうですが、今回の研究テーマについても、学生時代の出来事がきっかけで着想したといいます。

宮田:アフリカ系アメリカ人ダンサーの踊りを見たときに、圧倒的な違いを感じて愕然としました。たとえ日本人が同じ身体(ハードウェア)を持っていたとしても、おそらく同じ動きはできません。これは、意識や技術など目に見えない要素(ソフトウェア)が私たちと違い、全く異なるリズムを形成する力を、彼らは持っているのではないかと考えました。また、同時期に「黒人リズム感の秘密」という本と出会い、「なぜ彼らの動きはリズミカルなのか? なぜ日本人はリズム感が悪いのか?」などについての解説を読んだことで、リズム感が良い人と悪い人のソフトウェアをつかさどる脳の仕組みには、どのような違いがあるのかに興味が湧きました。

高性能なMRI装置を保有する生理学研究所に入所したこともあり、長年疑問に感じていたテーマでの研究を進めることにした宮田研究員。人間のリズム感といっても対象が幅広いため、今回の研究ではリズム感として「メトロノームなどのリズム音に運動を協調させる能力」に着目しました。人間が運動を正確にリズムに合わせるためには、次に来るリズムを予測する必要がありますが、その予測能力と関連している脳の場所はどこか、MRI装置で観察することにしました。

宮田紘平 研究員

宮田:予測能力が、正確にリズムに合わせることにおいて重要であることは、先行研究で示唆されてきましたが、どのような神経基盤が重要かは分かっていません。脳は複数の領域からの情報を統合することで、あらゆる機能を実現していると考えられています。そのような機能的な統合を実現するためには、そのつながりの構造も重要です。そこで私は、巧みに運動をリズムに乗せる仕組みについて、予測能力の観点から、脳の構造と機能を包括的に解明したいと考えたのです。

実は大学院時代に、2012年度の研究活動支援の対象となった、工藤准教授(当時)の研究室に在籍していたという宮田研究員。今回の応募もその影響が大きかったそうです。また、名だたる研究者が名を連ねてきた、ヤマハの研究活動支援の対象に選ばれることは、研究者としての目標の1つだったといいます。