研究活動支援対象者の活動レポート

リズム感の良し悪しを分ける脳の機能と構造の解明生理学研究所 システム脳科学研究領域 宮田紘平 研究員 インタビュー2018年08月31日 取材

リズム予測能力の高い人では、安静時によく見られる活動領域が抑制されていた

今回の研究の実験参加者は11名(男性5名、女性6名、平均年齢22.0歳)です。生理学研究所から配信したメーリングリストで返信をくださった人、生理学研究所のWebサイトに応募してくださった人が実験に参加しました。参加者には、MRI装置の中で、メトロノームを基にしたリズム音を聴いていただき、その音に合わせてできるだけ正確に右手人差し指でタッピング運動をおこなってください、と依頼しました。そして、ボタン装置を用意し、そのボタンをリズム音に合わせて押していただきました。

宮田:参加者に聴いていただくリズム音は、条件の異なる3種類の系列を用意しました。120拍/分という一定の速さであるConstant条件(C条件:音源1)。はじめは120拍/分で開始し、100拍/分まで遅くなったり、150拍/分まで速くなったりと波のように変化するTempo-changing条件(T条件:音源2)。はじめは120拍/分で開始し、100拍/分から150拍/分の間で速さがランダムに変化するRandom条件(R条件:音源3)です。これらをランダムな順番で16回ずつ聴いていただきました。MRI装置に入る前には約15分間の練習時間を設けました。また、実験中は視覚からの情報を統制するため、モニターに十字点を表示して、それを注視してもらいました。そして、参加者が課題に取り組んでいる際の脳活動を、MRI装置で撮影しました。

タッピングをリズム音に合わせるための予測能力を、PT指標(Prediction-tracking:予測追跡)で評価しました。このPT指標の値が高いほど、リズム音とタッピング運動のズレが少ないことは、別の先行研究で分かっていました。そして今回の実験でも、そのことを示唆する結果が見られました。

宮田:C条件、T条件、R条件と予測の難易度が高まる中で、脳活動の変化が一次運動野、体性感覚野、聴覚野、運動前野、補足運動野で観察されました。また、PT指標の高い人ほど、内側前頭前野、後帯状皮質、側頭極の活動が、C条件に比べT条件で強く抑制されていました。これらの領域は、人間が安静にしているときに神経活動が見られる場所として知られています(デフォルトモードネットワーク)。この抑制は、注意など別のネットワークへの処理資源の配分を示唆していると考えられます。逆にPT指標が低い人では、これらの領域で活動強度の変化はあまり見られませんでした。

図1:予測傾向を表すPT指標と、相関している脳の領域

音源1:C条件の音源(一部)

音源2:T条件の音源(一部)

音源3:R条件の音源(一部)