研究活動支援対象者の活動レポート

聴衆は本当に音楽を楽しんでいるんだろうか?
~聴衆の皮膚表面多次元循環解析による自律神経機能解析東北大学 加齢医学研究所 非臨床試験推進センター 山家智之教授 インタビュー2019年07月01日 取材

ピアノ演奏を聴いている人の顔を撮影し、脈波と自律神経機能の解析を実施

今回の実験では、学内掲示を利用して公募した学生や大学スタッフなど、20歳以上の健常者を複数募集。そして、本研究の趣旨を十分に説明し、参加の同意を得られた対象者にのみ実験をおこないました。また、計測実施前に身長や体重、健康状態、睡眠時間、食習慣、既往歴などについて、問診票への記入を依頼。被験者の心理傾向を確認するための調査も、併せて進めました。

山家:被験者に聴いてもらったのは、イサーク・アルベニスの「スペインの歌 op.232」第4曲「コルドバ」です。まず、2分間安静な状態になってもらってから、ピアノの生演奏を約4分間聴いてもらい、その後さらに2分間安静な状態になってもらいます。その間、被験者の様子をビデオカメラで撮影。その映像を解析し(図1)、楽曲のスローテンポな箇所と、アップテンポな箇所を比較しました。

映像内で設定した領域をモザイク状に分割し、各領域の緑色信号のうち心拍周波数近傍の成分が強いものだけを対象として選択。心拍変動に無相関な運動や周辺光変化による雑音成分をリアルタイムでキャンセルして、脈波情報を得ています。加えて、映像脈波情報から脈波伝搬時間差や血行状態を推定するために、領域間の信号の位相差を抽出しました。その解析結果が(図2)になります。Video Pulseが映像から分かる近位と遠位の脈、HRは心拍数、LF/HFは自律神経機能活性度、PTTDは脈波伝播時間差の解析結果をそれぞれ表しています。

山家:被験者の映像から、脈波周波数を解析した結果と、楽曲が持つ周波数特性に似た傾向が観察されました。これは、引き込み現象により、音楽を聴いた被験者の脈波が、楽曲の周波数特性に同期しようとしているのではないかと考えられます。このことは、視聴覚コンテンツが人間の自律神経活動に影響を与えている可能性を示唆しているといえます。

音楽療法においては、何をもって効果とするのかなど、難しい部分もあります。ただ、少なくとも音楽コンテンツによる働きかけが、聴いている人間の心理状態に何らかの影響を及ぼすことは、科学的なデータで証明することができました。この実験結果から、映像から脈波を計測・解析することで、人間の心理状態を定量評価することは可能だといえそうです。

図1:検出された映像の多チャンネル脈波と、実験に応用されたピアノ

図2:解析されたデータを、スローテンポな箇所とアップテンポな箇所で比較