エレクトーン界のレジェンド・窪田宏が東名阪コンサートツアーを開催。
2017年1月13日(金)大阪・Music club JANUS、1月14日(土)名古屋・BL Cafe、そして1月20日(金)東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE。記憶に新しい方も多いと思うが、名古屋は30数年ぶりという大寒波に見舞われた日、東京も雪がちらつく天候となったのだが、ファンの熱気は寒波より強し。東京会場では、喧噪とサウンドのSEに乗って窪田がまだ暗いステージに登場すると、そのシルエットに向けて早くも熱い拍手が沸き上がった。
その拍手に応えるように、サックスの音色でしっとりと1曲目『Smooth In Love』がスタート。ゲストボーカルのMiyuki、ドラム則竹裕之も曲中から加わり、3人のサウンドが温かく絡んでいく。15年前の窪田の曲にMiyukiが歌詞をつけたリニューアルバージョンは、「最後までリラックスして楽しんでほしい」という窪田の言葉をそのまま表すような、スッと心に入ってくる音楽となって届けられた。
今回のコンサートは窪田が生み出してきたオリジナルの中から、バラードを中心に集めた「大人な」プログラム。
約1年前に発売されたアルバム「Vocalize」収録曲を散りばめながら、これまでの楽曲のリアレンジや、インスト曲に新たな詞を乗せた新バージョンなど、ファンにとっても新鮮なナンバーが顔をそろえるレアなもの。窪田の楽器はELC-02にnordシンセの組み合わせで、黒と赤のスタイリッシュなセッティングにも期待が高まる。
3人での演奏が3曲続いたあとは、窪田とドラム則竹のセッションタイム。軽快なベースワークと、立体感・一体感あるサウンドのワルツ『Blue Moon』から、変化に富んだ『Tell Me A Bedtime Story』へ。浮遊感あるデジタルサウンドとリズムが絶え間なく変化し続け、則竹曰く「窪田の中にソリストが何人もいる!」かのよう。名曲を、幻想的で斬新なアレンジで楽しんだ。
演奏では互いに遠慮なくぶつかり合う窪田と則竹だが、MCではリスペクトしあう微笑ましい腰の低さ(笑)。
意外に一緒に演奏するようになってまだ5、6年ということに驚くが、あうんの呼吸でプレイするふたりの真骨頂となったのが『Real in‘D』。重低音をバリッと効かせたロックなニューバージョン、窪田のベースは疾走を続け、則竹のドラムソロは白熱。窪田のアドリブも呼応して一層熱い。シックな演奏に身を委ねていた観客の熱気も一気に上昇したが、しかしこのまま高熱で飛ばさないのが「大人の」やり方。ソロでのミディアムなオルガンナンバー『Consideration』を挟み、ピアノオンリーの『Satisf’y』でクールダウン。抒情的な旋律を生み出す指の運びに、視線は釘づけとなった。
再び3人がそろった『Chance!』。ボーカルにもエフェクトをかけ、EDM系のグルーヴたっぷりのプレイに観客も我慢しきれず手拍子で参戦。間髪入れずに『Kool Tune』が始まり、Miyukiのスキャットと対抗するように窪田のアドリブも攻め続ける。
テンションが上がりきったところでラストは『Vocalize』。Miyukiのシルキーな歌声とエレクトーンのボーカル音色が混ざり合ったトリッキーなサウンドから一気にドライヴ! 客席もMiyukiにあおられ大合唱。立ち上がりたくなるほどのダンサブルなナンバーを浴びせられ、もちろんこのまま終われる訳はない。
アンコール1曲目は則竹とのデュオで、フックたっぷりのハイスピード『Real Spin Kick』。最後にきてこの日一番のパワフルプレイ……!(そのパワー感、則竹のスティックが砕けるほど) そして大ラスは、珠玉のバラード『One’s Heart~Forever~』。オルガンの音色に乗せたMiyukiのソウルフルな歌声が胸に刺さるよう。圧巻のプレイに観客も大満足の拍手で応えた。
窪田の代名詞である「攻めのプレイ」が一歩だけ後ろに下がり、大人の渋さをじっくりと聴かせたコンサート。窪田にとっても意外な発見があったと言う今回限りのスペシャルプログラム、見届けられた人の今年の音楽運、かなり高めと占って間違いない。
文:神田麻央