ヤマハ音楽支援制度は、優れた音楽能力を有し、将来音楽分野で活躍が期待される若手音楽家への支援として「音楽奨学支援」(13歳以上~25歳以下)を実施しています。
今回は2015年度の支援対象者で、現在、イタリア中部のぺスカーラ音楽院(1年コース、ピアノ専攻)に留学されている、リード希亜奈さんにお話を伺いました。
プロフィール:リード希亜奈(リード キアナ)1995年滋賀県生まれ
2010年4月東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校入学
2013年4月東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻入学
2017年3月同大学を首席で卒業、在学中にアリアドネ・ムジカ賞受賞、卒業時に大賀典雄賞、アカンサス音楽賞、安宅賞、同声会賞、三菱地所賞を受賞
2017年秋より、イタリア・ぺスカーラ音楽院(1年コース、ピアノ専攻)に留学
PTNAピアノコンペティション全国大会において、C級金賞、G級銀賞、王子ホール賞、洗足学園前田賞など多数受賞
2006年、京都芸術際にて京都市長賞受賞
全日本学生音楽コンクールにおいて、小学校の部、高校の部 大阪大会第1位
2012年8月、ザルツブルク音楽祭公式プログラムにて演奏するなど、国内外での演奏のほか、山下一史、藤岡幸夫、梅田俊明、高関健、田中一嘉の各氏の指揮で、関西フィルハーモニー管弦楽団、藝大フィルハーモニア管弦楽団など複数のオーケストラと共演
第3回高松国際ピアノコンクール第5位、第14回カルロ・ヴィドゥッソ国際ピアノコンクール第2位、第15回アントニオ・ナポリターノ国際ピアノコンクール第3位
2017年、アルベンガ国際コンクール第1位など入賞歴多数
これまでに、ピアノを故汐巻公子、甲斐環、野山真希、岡原慎也、黒田亜樹、有森博、パスクヮーレ・イアンノーネの各氏に、室内楽を江口玲、河野文昭、伊藤恵、川本嘉子の各氏に師事
音楽を始めたきっかけ
母がピアノの教師をしており、幼い頃はよく母のレッスンについて行き、そばで聴いていました。音楽が大好きだったことは覚えていますが、自分からピアノを習いたいと言い出したそうです。3歳からヤマハ音楽教室に通い始め、ピアノは小学校1年生の時に始めました。
印象に残った経験・先生・レッスン
東京藝大の附属高校に入ったことが自分にとって大きな転換期でした。本格的に音楽と向き合い始めたのはこの頃からで、今でも当時の3年間は、自分にとって大変有意義で濃厚な時間であったと感じています。入学のタイミングで上京し一人暮らしを始めたので、環境の大きな変化に伴い家事、学業、練習の3つをやりくりすることが大変で、よく泣きべそをかいていました。私は要領が良い方ではなく、生真面目だったので、全てしっかりやらなければと思ってしまい、毎日本当に必死の思いでした。
それでも学校生活ではいつも周りに素晴らしい音楽家たちがいて、その才能に驚き、刺激をもらいながら、さまざまな音楽との出会いやアンサンブルの楽しさなど、新しい経験だらけでした。このような日々を通して視野も広がり、考えも深まったとともに自分の意識が高まったのだと思っています。
藝高と藝大では有森博先生に師事していました。先生は音楽家としてだけではなく、人間的にも心から尊敬できる方です。ちょうど自分の向上心が強くなり、考えることが増えた分、色々と苦悩することも多い時期でしたが、そんな中で先生は(あまり口には出されなくても)いつも私の気持ちを細やかに汲み取りレッスンをしてくださいました。先生のレッスンは一切の妥協を許さない内容で、初めて受けた時は果たしてついていけるのだろうかと不安でしたが、自分の中の生ぬるかった部分を引き締め、更なる高みへと引き上げてくださった大きな存在です。本当にお世話になりすぎて、いくら感謝の気持ちをお伝えしても足りないくらいです。
岡原慎也先生には9歳のときから習っており、もう14年もお世話になっています。関西にお住まいのため、高校に入ってからは年に数回聴いていただくくらいのペースですが、何よりも多角的な視点を持っておられ、いつもたくさんの事柄に気付かされます。改めて考えると、特に感性の部分において岡原先生から大きな影響を受けていると感じます。
現在、イタリアのペスカーラ音楽院で師事している、パスクァーレ・イアンノーネ先生は「先生」というより「コーチ」という言葉がぴったりの方です。
先生は人間性を見抜く力にすごく長けておられるので、レッスンの時だけではなく日々の生活にいたるまで、まるでお父さんのようにアドバイスしてくださいます。
その人のあるがままがそのまま音楽になるので、人として変わっていくことで音楽もまた変わっていきます。今の私の課題は、自分の性格、日常生活に大きく関わっていることが多いので、先生にはそこを瞬時に見抜かれてしまいます。
演奏の本番への気持ちの持っていき方など、精神的な部分においても常にポジティブな方向性でプッシュしてくださるのでとても心強い存在です。
影響を受けた音楽家、好きな音楽
高校に入ってから非常に大きな衝撃を受けたのはホロヴィッツでした。圧倒的にハートに刺さるものがあり、CDやDVDを買って聴きあさっていました。あまりの素晴らしさに嫉妬心や悔しさを抱くことさえありながらも、彼の音源を聴いている時は幸せを感じていたのを覚えています。ほかにはバーンスタイン、アルゲリッチ、ジェシー・ノーマン、レオニード・コーガン、樫本大進さんも好きです。若手ピアニストのリュカ・ドゥバルグも良く聴きます。また母の影響で、幼い頃からクラシック以外のジャンルにもずっと親しんできており、今でもさまざまな音楽を聴いています。
ヤマハ音楽奨学支援を受けての感想
3年間ヤマハ音楽奨学支援を受けさせていただいたことは、自分が音楽を続ける上で本当に大きな助けとなりました。この支援が無ければ「世界」という舞台は夢で終わっていたのではないかと思います。
国内外で様々な音楽家のレッスンを受講したり、国際コンクールにも挑戦するなど、果敢に行動したことがイタリア留学を決意させ実現につながったのだと思います。
そして今、心から音楽を愛し楽しむことが出来ています。
私に広い視野と海外に出て行く大きな勇気をくださり、多くの貴重な経験をさせていただき本当にありがとうございました。
今後取り組んでいきたい音楽、やりたいこと
外国では(特にイタリアでは)、日本人の演奏についてまだまだある種の先入観を持って聴かれることが多いように思います。例えば「とても良く弾けるけれど音楽が無い」などという言葉をたくさん耳にしてきました。自分はそんな先入観を打ち破る「音楽」をするのだと強く決意しています。現在学んでいることを糧に進化していきたいと思います。
私は19歳の時から指導もしていましたが、これまで出来るだけ指導活動は控えたいと思っていました。その理由は、生徒さんは可愛いし成長していく喜びも大きく、やりがいは感じていたのですが、まだまだ私自身学びたいことがたくさんあるし、「自分はもっと弾いていきたい」と強く思っていたからです。でも、今イタリアで教育を受けることで、少しずつその気持ちが変わってきました。日々の経験の中で、「これは日本にもぜひ取り入れるべきだ」と思うことが、既にたくさん見えてきたのです。そして、それらを自分が伝えていかなければならないと思うようになりました。自分のやっているクラシック音楽がより良い方向に向かうためであれば微力ながら尽力していきたいと思っています。
これから経験と知識をさらに身につけて、積極的に行動し、世の中に発信をしていけるような芯のある人になれるよう頑張っていきたいと思います。