作曲家・ピアニストとして第一線で活躍を続けている西村由紀江さん。通算40枚目のアルバムとなる「PIANO SWITCH‐BEST SELECTION‐」を本年4月に発表し、ピアノの楽しさ、魅力を存分に味わえる作品として大きな注目を集めています。
後編では、ヤマハ音楽教室での思い出や、ライフワークとなっている「学校コンサート」などについてうかがいました。
ヤマハ音楽教室の思い出を聞かせてください。特に印象に残っていることは?
幼児科の頃から、先生がいろいろな国の音楽を聴かせてくださったんです。スペインの舞曲や壮大なオーケストラの曲、ショパンの繊細な曲などジャンルを超えてたくさんの音楽を聴きました。それに合わせてみんなでカスタネットを叩いたり、うまくできたら裏拍でも叩くとか、楽しかったです。先生が聴かせてくださった曲の中でも特にシャブリエの『スペイン狂詩曲』が好きで、いろんなメロディーがどんどん出てきて転調したり、リズミックで次々とメロディーが展開されるところに惹かれていました。
レッスンを続けていく中で、悩みや壁にぶつかったことなどはありますか。
私はとても手が小さかったので、他のお友達と一緒に習っていても私だけ進むのがどうしても遅れてしまい、挫折したことがありました。でも、手が小さいことよりももっと苦手なことがあったんです。とにかく人と話すのが苦手で、教室でも幼稚園でもほとんど話せない。話しかけられるといつもドキドキしていました。「元気?」って聞かれて「元気だよ」と答えるだけでも緊張してしまうような子どもでした。そんなもどかしい気持ちを、いつもピアノにぶつけていたんです。自分の心を和ませたくて、ひたすらピアノを弾いて…。そうするうちに、ピアノに向かう時間が自然と多くなりました。「嬉しい気持ちはこんなメロディー」「今日の悔しかったことはこのメロディー」というように、自分で創ることを楽しむようになれたんです。
JOC(*1)の海外公演にも出演されましたね。
はい、4回行きました。いちばんの思い出は初めて行ったタイでの演奏です。当時私は8歳、初めての海外でしたし「私が海外に行ってもいいのかな」「大きなホールで皆さんにしっかり伝わるのかな」と不安でいっぱいでした。でも、本番で『たのしいおたんじょうび』の演奏を終えた時、観客の方たちが大きな歓声とともに笑顔で拍手してくださったんです。「誕生日の楽しい気持ちがタイの皆さんに伝わったんだ!」とビックリしたと同時にとても感動しました。理屈ではなく身体で、うわーっと感じたんです。今でもコンサートの前に緊張したり、初めての場所で不安になった時にはその時のことを思い出します。すると心が静かになり「大丈夫」と思えるんです。
ヤマハで学んでよかったと思うことはどんなところでしょうか。
何と言ってもアンサンブルが経験できたことです。初めて誰かと一緒に演奏する時に、相手の音を聴くとかリズムを感じることはとても大切なのですが、その経験は今もとても役立っていて、ドラマの音楽を創る時はヴァイオリンで弾いたらこんな感じになるのかな、などすぐに想像できますし、自分の音だけでなく相手の音を聴いて全体を創っていくことができるのはヤマハで学んだおかげだと感じています。そして、作曲を教えていただいたことも大きいですね。音楽理論としてこの音とこの音を一緒に鳴らしてはダメ、といった堅苦しいものではなく、これとこれを響かせたらとてもいい感じ、というように自由な発想を大切にした形で習うことができてよかったと思います。
ライフワークとなっている「学校コンサート」は20年近く続けられているそうですね。
2001年に岩手でのコンサートが実現し、これまでに全国150か所以上で演奏してきました。私が弾くピアノから皆さんがいろんなことを感じてくれるのが嬉しいですね。「私は西村さんのようなピアニストになります!」といった宣言や、「楽しそうに弾いている西村さんにもつらいことがあったと知りました。練習は大変だけど僕も柔道をがんばるので、西村さんもピアノがんばってください!」など、さまざまな感想をいただいています。一人一人の純粋な思いが伝わってきますね。今年も10校近くで公演を予定しています。
被災地にピアノを届けるプロジェクト「Smile Piano500」の活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいますね。
これまでに58台のピアノをお届けしました。ピアノが運ばれてくる時にお子さんたちが「ピアノが来たよ!帰ってきたよ!」と嬉しそうに言うんです。「届いた」「着いた」ではなく、「来た」「帰ってきた」なんですね。失った方たちにとってピアノは「物」ではなくて「家族」なんですね。きょうだいで取り合うようにピアノを鳴らす様子を見ると、ピアノがとても特別な存在であることを実感します。こんなに愛しく思っている人たちがいるということを、皆さんの心の片隅に置いていただけたら嬉しいです。
最後に「ヤマハ音楽教室」に通う子どもたちにメッセージをお願いします。
練習が大変な時もあるかもしれませんが、習っていてよかった!と思える日が必ず来るということを信じていてほしいです。将来、音楽とは別の道に進むようになったとしても、教室で学んでいたことが役に立つ時が来ると思います。ひとつのことを続ける努力や忍耐力もそうですし、アンサンブルの経験は他の人たちと力を合わせて物事を進めていく時に活かせるでしょう。思うように弾けない時もあるかもしれないけれど、そんな時はあまり焦らずに、楽しむ気持ちを忘れないでください。楽しんで弾いていれば聴いている人にもそれが伝わります。上手にというよりは、楽しんで表現することを大切にしながら続けてほしいです。
*1 JOC(ジュニアオリジナルコンサート)… ヤマハ音楽教室で学ぶ15歳以下の子どもたちが、心に感じたことを曲にし、自ら演奏するコンサート。
西村由紀江 40th Album
「PIANO SWITCH‐BEST SELECTION‐」
■収録曲
01.あなたに最高のしあわせを
02.オルゴールを聴きながら
03.objet
04.天空のワルツ
05.夢を追いかけて〜薫のテーマ〜
06.手紙
07.やさしさ
08.雪の路
09.My Classic
10.黒鍵
11.少女がみたもの
12.終わらない旅
13.DREAMS
14.すき
15.時のきらめき
■発売元:株式会社ハッツアンリミテッド
■販売元:エイベックスエンタテインメント株式会社
西村由紀江さんが出演される「ヤマハ・ガラ・コンサート2019」の詳細はこちら>>>
幼少より音楽の才能を認められ、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジア諸国への演奏旅行に参加。マエストロや世界の一流オーケストラとも共演し、絶賛を博す。
桐朋学園大学入学と同時にデビュー、美しく切ないオリジナルのメロディーには、幅広い層からの支持がある。
『101回目のプロポーズ』『子ぎつねヘレン』など、ドラマ・映画・CMの音楽を多数担当するほか、TV・ラジオの出演やエッセイの執筆も行う。
年間60本を超えるコンサートで全国各地を訪れる傍ら、ライフワークとして「学校コンサート」や「病院コンサート」、そして被災地にピアノを届ける活動「Smile Piano 500」にも精力を注ぐ。
2016年、アルバム「My Stories」が香港IFPI 「Best Sales Awards 2015」を受賞。
2018年、全国を巡回する「至上の印象派展 」とのコラボレーションアルバムをプロデュースし話題となる。
2019年4月、メジャー通算40枚目となるアルバム「PIANO SWITCH‐BEST SELECTION‐」をリリース。
オフィシャルサイトはこちら>>>