
ヤマハ音楽教室の中でも、特に優れた才能や資質をもつ生徒を対象としたヤマハマスタークラスは、1988年の創設以来、数多くの音楽家を世に送り出してきました。今年も、ピアノ特別コースの在籍生8人によるコンサートが、2018年4月15日(日)にヤマハホール(東京都中央区)で行われ、高度な演奏テクニックや磨き抜かれた表現力など、日頃の成果を存分に披露しました。
最初に登場したのは、ヘンデルの『シャコンヌ』を演奏した上原悠さん(14歳)。明るく力強さに満ちた主題の和音から始まり、徐々に軽やかさと喜びが増していく第1変奏から第8変奏へ。神に祈るような気持ちが感じられる第9、第10変奏、そして再び喜びにあふれる第11変奏から第16変奏を経て、最後は第17変奏から第21変奏まで高揚した気持ちが一気に駆け抜けていく。ひとつの曲の中で様々に変わる曲想を、巧みな表現力で聴かせてくれました。
続いて登場したのは、リストの『コンソレーション第2番』と『小人の踊り』を演奏した小田島薫子さん(13歳)。『コンソレーション第2番』は、柔らかく温かみのある音色で、情緒豊かに表現。2つの演奏会用練習曲からの1曲『小人の踊り』は、コロコロと軽快でおどけた感じのメロディに、小人がいたずらっ子のように自由に動きまわっているような雰囲気がよく表れていました。
佐野瑠奏さん(14歳)は、ショパンの歌曲をリストが編曲した『6つのポーランドの歌』から3曲を演奏。『乙女の願い』は、力強いメロディと甘くささやくようなメロディの対比がくっきりと表れていました。『バッカナール』は、全体に力強く陽気でコミカルな感じの中で、ほんの一瞬だけ包み隠していた悲しみが表れたような、繊細なメロディが美しく響きました。『私の愛しい人』は、さざなみのように揺れ動く気持ちがうねるような激情へと変わっていくさまを、ダイナミックに表現しました。
戸澤正宇さん(15歳)の演奏は、チャイコフスキーの『ドゥムカ』。ゆったりとした哀愁漂う冒頭のメロディは、右手から左手へとスムーズに受け渡され、右手で奏でられる美しい装飾音は、左手のメロディをよりいっそう引き立たせていました。力強く演奏する中間部の情熱的なメロディからは、スラブの農民たちが楽しく農作業している情景が目に浮かぶような、明るい雰囲気が伝わってきました。
品田凛花さん(18歳)は、スクリャービンのピアノソナタ第9番『黒ミサ』と詩曲『焔に向かって』の2曲を演奏。『黒ミサ』は、曲が進むにつれて悪魔的な色合いがどんどん濃くなっていき、あやしい魔力のような幻想世界が繰り広げられました。クライマックスでは、激しい不協和音でさえも美しく感じさせるような優れたハーモニー感を発揮。『焔に向かって』は、シンプルで静かなメロディから始まり、次第に情熱が爆発していく曲全体の構成を、低音の響きがしっかりと支えていました。
休憩をはさんで後半は、島村崇弘さん(16歳)のリスト『ハンガリー狂詩曲第2番』の演奏からスタート。重々しい厚みのある音から、次第にキラキラと輝くような軽やかな音へと表現が変わり、本人オリジナルのカデンツァを経て、終盤のクライマックスでは、体全体を共鳴させてピアノの音を響かせているような迫力がありました。
寺田雅さん(16歳)は、メトネルの『忘れられた調べ第1集』より『回想ソナタ』を演奏。過ぎ去った過去をいつくしむような緩やかな部分と、過去のせつない思いを生々しくぶつけるような部分が繰り返される起伏に富んだ作品を、綿密な構成力と豊かな表現力で演奏しました。
最後の演奏は、小嶋早恵さん(18歳)のプロコフィエフのピアノソナタ第7番『戦争ソナタ』。第1楽章は、破壊的な力強さをもつ不協和音の響きから、不穏な空気や怒りが伝わってきました。第2楽章は、ジャズ風の美しい音色にひそむ、静かな狂気が感じられました。第3楽章は、パンチのある左手のフレーズが繰り返されるなか、最後のクライマックスまで一気に突き進んでいく圧巻の演奏で、コンサートのフィナーレをしめくくりました。
