ヤマハ音楽教室の生徒の中でも特に優れた才能や資質をもつ人を対象に、1988年に開設されたヤマハマスタークラスは、これまでも数多くの演奏者を世に送り出してきました。ピアノ特別コースの在籍生7人によるコンサートが、今年も2019年4月14日(日)にヤマハホール(東京都中央区)で行われ、日頃のたゆまぬ研鑽によって磨き抜かれたテクニックや高い表現力による演奏を、それぞれ披露しました。
最初の演奏は、太田朝日さん(10歳)によるバルトークの『ソナチネ』。骨太な低音の響きが繊細なメロディーをしっかりと支える『バグパイプ吹きたち』、軽やかにステップを踏んでいるような『熊の踊り』、華麗なメロディーが次第に加速していく様子が魅力的な『フィナーレ』を、リズムに乗って楽しそうに演奏していたのが印象的でした。
続いて、新田雛菜さん(14歳)がグリーグの『抒情小品集』より4曲を演奏。『フランス風セレナード』は、澄んだ空気や水にあふれる素朴な田舎の風景が目に浮かぶような、きれいな澄んだ音、『小川』はキラキラと水面がきらめいているような繊細なメロディー、『ノクターン』はロマンティックで幻想的な雰囲気、『家路』は人々が集まってにぎわう華やかな様子を、それぞれ情緒的な表現で表していました。
佐野瑠奏さん(15歳)は、リストの『2つの伝説』より『小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ』を演奏。冒頭の繊細でコロコロと回る音で鳥たちのさえずりを、続く静かで厳かなメロディーで聖人の語りを表現。お互いに少しずつ距離をつめて、次第に聖人と鳥たちが深く会話を交わしあっていく様子が目に浮かぶようなストーリー性を感じさせる演奏でした。
前半の最後は、上原悠さん(15歳)。リストの『巡礼の年第2年《イタリア》』より抜粋された『ペトラルカのソネット第123番』は、細部まで神経を研ぎ澄ませたような高音部と、それをしっかりと支える中音部のメロディーとのコントラストが効いた演奏。同じくリストの『ハンガリー狂詩曲第12番』は、おどろおどろしたミステリアスな低音から始まり、軽やかなダンスのような中間部を経て、クライマックスとなる終盤は、リストらしい華やかさにあふれた迫力ある演奏でピアノ全体を大きく響かせ、会場を魅了しました。
後半は、小田島薫子さん(14歳)が、ドビュッシーの『プレリュード第1集』より4曲を演奏。『アナカプリの丘』は、鮮やかな青い空を連想させるような明るい開放的な雰囲気が漂い、『野を渡る風』は、ミステリアスな雰囲気。『亜麻色の髪の乙女』は、豊かな髪を持つ乙女のゆったりとした様子を思わせ、『西風の見たもの』は、タッチの強さが吹き荒れる風を表すような演奏でした。
福本真悠さん(15歳)は、バッハ『平均律クラヴィーア』の影響を受けて作曲したという、ショスタコーヴィチの『24のプレリュードとフーガ』より2曲を演奏。『第6番』は、重苦しい付点のリズムが続くプレリュードと、厚い音の層がおごそかな雰囲気をもつフーガの組み合わせによる重厚な作品、『第21番』は、駆け回るような右手の16分音符が続くプレリュードと、スタッカートが特徴的なフーガの組み合わせによる躍動感あふれる作品。性格の違う2つの曲をみごとに弾き分けていました。
コンサートの最後は、寺田雅さん(17歳)によるスクリャービンの『ピアノソナタ第3番』の演奏。付点のリズムを基点としたダイナミックさと甘さが交錯する第1楽章、優雅で軽やかなリズムを刻む第2楽章、静寂から徐々に激しく、怒りや不安が高まる第3楽章、人生の希望を高らかに歌い上げるような第4楽章と、内面性の強い作品を、緻密な構成力で表現してコンサートのフィナーレを華々しく飾りました。