
ヤマハ音楽教室で学ぶ生徒の中から、特に優れた才能や資質を持つ生徒を対象に指導を行うヤマハマスタークラスは、1988年の開設以来、数多くの音楽家を世に送り出しています。ピアノ特別コースに在籍する生徒8人によるコンサートが、2021年4月11日(日)に、ヤマハホール(東京都中央区)で行われ、日頃の学習の成果を披露しました。
コンサートは、太田朝日さん(12歳)の演奏からスタートしました。曲目は、メンデルスゾーン『3つのカプリス』より『第1番』。序盤の悲しげで美しいメロディを、とても柔らかな音色で奏でます。続く激しいパッセージは力強く、中間部で目まぐるしく調性が変化していく部分では深い悲しみを表現。哀愁を漂わせながらも温かい雰囲気の演奏からは、太田さんの人柄が表れているように感じられました。
続いてショパン『スケルツォ第2番』を演奏したのは、萩原麻理子さん(13歳)。冒頭の3連符のモチーフから次の高音へ跳躍する直前の休符からは、張りつめた緊張感が伝わってきます。続く左手のなめらかなアルペジオにのせて右手は優美なメロディをリズミカルに刻み、中間部のメロディはしっとりと歌わせます。最後のコーダ部分は、萩原さんが着ていた真っ赤なドレスのように情熱的で華やかな演奏でしめくくりました。
次に登場した佐野瑠奏さん(17歳)は、メンデルスゾーン『幻想曲「スコットランドソナタ」』を演奏。深い霧の中に沈んでいくような左手の和音から幻想的な世界が広がり、最後に再び霧の中に深く沈んでいくような1楽章に続き、穏やかな平和が訪れたような雰囲気の2楽章、無窮動でアグレッシブな動きの中でうねるような感情の波を感じる第3楽章と、楽章ごとに変わる世界観を、さまざまな音の表情で聴かせてくれました。
前半の最後は、寺田雅さん(19歳)によるドビュッシー『版画』の演奏。『パゴダ』では、最初の一音を、柔らかな音でそっと弾くために意識を集中させ、オリエンタルな雰囲気の中で美しい音が広がります。『グラナダの夕べ』は、ハバネラのリズムにのって、憂いを含んだ音楽を展開し、『雨の庭』では、パラパラと流れるような音の連打が、雨のはねる様子を連想させます。各曲から印象派の音楽感が表現され、印象的な演奏でした。
休憩をはさんで登場した新田雛菜(16歳)さんは、チャイコフスキー『6つの小品』より『第6曲 創作主題と変奏』を演奏。シンプルで素朴なメロディのテーマから始まり、第1変奏から第4変奏までは段階ごとに動きと速さが増していき、第5変奏でロマンティックな雰囲気に。第6変奏からは、軽快に動きだしたり静寂が訪れたり、悲しげな雰囲気になったりとさまざまに表情を変えながら、コーダの勢いのある細かいパッセージで華やかにフィナーレを迎えます。1曲ごとの変奏の特徴を的確にとらえた演奏が楽しめました。
続いて小田島薫子さん(16歳)は、ラヴェル『鏡』より2曲を演奏。『第2曲 悲しい鳥たち』は、深く暗い森の中で鳥たちが悲しげに鳴いている様子を高音部の繊細なメロディで表現。『第3曲 海原の小舟』は、キラキラと輝く水面に小舟が静かに浮かんでいたり、嵐の中で小刻みに揺れる様子が目に浮かびました。最後の一音が減衰して消えていくのを、じっと耳を研ぎ澄ませて聴いている姿が印象に残りました。
福本真悠さん(17歳)は、プロコフィエフ『バレエ「ロメオとジュリエット」からの10の小品』から3曲を演奏。『第2曲 街の目覚め』では、軽やかに刻まれるリズムに合わせてメロディが動き出し、次第に力強く活気づく街の様子がよく表れていました。『第8曲 マーキュシオ』は軽快なテンポに乗って、ダイナミックな和音とメロディが奏でられ、『第10曲 別れの前のロメオとジュリエット』では、やがて二人にやってくる悲しい未来を予感させるようなメロディを最後の1音までていねいに奏でていました。
最後の演奏は、上原悠さん(17歳)。スクリャービン『ピアノソナタ第5番』は、激しい感情をぶつけるような冒頭の和音の響きに、会場が一瞬にして凍りつくような緊張感があふれます。続く激しいパッセージやミステリアスなメロディに引き込まれ。終盤ではファンタジックな世界へといざなう上原さんの演奏に一気に引き込まれました。ラフマニノフ『絵画的練習曲』より『第8番』は、幻想的な雰囲気。間髪入れずに続けた『第9番』は、力強い和音の連打が、重厚で華麗な表情を見せます。演奏後、すべての力を出して弾ききったというような安堵の表情の上原さんに、会場からは大きな拍手が送られました。
コンサートの演奏動画は、後日ヤマハ音楽振興会YouTubeに掲載予定です。