
1988年の開設以来、特に優れた才能や資質をもつ生徒に専門的な指導を行い、数多くの演奏家を世に送り出しているヤマハマスタークラス。ピアノ特別コースに在籍する6人によるピアノコンサートが、2022年4月10日(日)にヤマハホール(東京都中央区)で行われ、日頃の研鑽の成果を発表しました。
最初の演奏者、太田朝日さん(13歳)は、ベートーヴェンの作品を演奏。『7つのバガテル』第1番は、素直で力強い音が心地よく響き、穏やかな田園のような雰囲気をかもしだしていました。「なくした小銭への怒り」という副題のついた『ロンド・ア・カプリッチョ』は、小刻みに動き続ける躍動感あふれるリズムと諧謔的なメロディーに、ワクワクと心を踊らされる演奏でした。
2人目の演奏者は、萩原麻理子さん(14歳)。シューベルト=リスト『水車屋の歌』第1曲『さすらい』は、きらびやかなメロディーに乗せて楽し気に演奏。『12の歌』第2曲『水の上で歌う』は、哀愁を帯びた柔らかな音で右手のメロディーに左手が応え、まるで若い男女が恋に落ち、時にけんかをしながらも徐々に愛を育んでいくようなイメージが浮かびました。第9曲『セレナード〈きけ、きけ、ひばり〉』は、ひばりが美しくさえずる感じを、第10番『憩いなき愛』は、ロマンティックなうっとりとするような曲想を表情豊かに演奏しました。
前半の最後、新田雛菜さん(17歳)はリスト『巡礼の年第2年補遺〈ヴェネツィアとナポリ〉』から3曲を披露。『ゴンドラを漕ぐ女』は、水の中で揺れているような左手と幻想的な右手のメロディーが溶け合い、『カンツォーネ』は、さざ波のようにゆらぐ左手に支えられて右手のメロディーが強く響きます。『タランテラ』は、軽やかな連打が次第に加速していく前半の激しい動きから一転、中盤はきらびやかなメロディーが美しく流れ、最後は華やかに盛り上がって終わるメリハリの効いた演奏を聴かせてくれました。
休憩をはさんで後半の最初は、佐野瑠奏さん(18歳)がスクリャービン作品を演奏。『5つの前奏曲』第1番は、夢の中にいるようなロマンティックな雰囲気。『2つの左手のための小品』第1番『前奏曲』は、とても左手だけで演奏しているとは思えない高度なテクニックで、低音の深い響きと、物悲しいメロディーを際立たせます。『ピアノソナタ第9番〈黒ミサ〉』は、混沌とした雰囲気からホール全体に音が響きわたるような激しい感情の爆発を経て、再び混沌へと戻っていく世界観をみごとに表現。弾き終わってからもしばらくの間、余韻に浸る姿が印象的でした。
続いて、福本真悠さん(18歳)によるドビュッシー『映像第2集』からの3曲。『葉ずえを渡る鐘の音』は、夢の中でさまざまな音色の鐘が鳴っているような色彩豊かな音色。『そして月は廃寺に落ちる』では、夜空にぼんやりと月が浮かび、その光で廃寺が美しく浮かび上がる情景が、『金色の魚』では、うろこが光に反射してキラキラと光りながら縦横無尽に美しい魚が動き回るさまが目に浮かぶような情緒あふれる美しい演奏でした。
コンサートの最後をしめくくったのは、上原悠(18歳)さんのラフマニノフ『ピアノソナタ第2番』。第1楽章は、激しく吹き荒れる嵐のような感情のうねりや高まりと、嵐が過ぎ去ったあとの静寂をダイナミックに表現。第2楽章は、昔の思い出をなつかしく振り返るようなノスタルジックなメロディーを柔らかい音で美しく奏でます。一転して第3楽章では、再びあらわれた感情の高まりを、流れるような華やかなメロディーと重厚な和音で表し、華麗な響きのラストまで一気に弾ききる圧巻の演奏で聴衆を魅了しました。
なお、コンサートの演奏動画は、5月末にヤマハ音楽振興会YouTubeチャンネルに掲載予定です。