
童謡をイメージした太く大きなメロディーでぬくもりある音楽を制作
ヤマハ音楽教室WEBムービー「音楽と、生きる。」が公開され、温かなメッセージが込められた1分40秒の動画が、多くの人の共感を呼んでいます。この動画の核となるのはやはり音楽。ピアノとストリングスの柔らかく温かな楽曲『いちばん、たいせつなもの。』を手掛けたのは、エレクトーンプレイヤーの中野正英さん。この音楽が誕生した経緯、制作裏話などをうかがいました。
ヤマハ音楽教室WEBムービー「音楽と、生きる。」
ジャンルの違う候補曲は全部で3曲
●とても温かく、ピアノのメロディーが心に残る音楽ですね
ありがとうございます。このお話を僕が聞いたときにはすでにコンセプトや絵コンテができあがっていて、それに沿って楽曲を制作しました。実は、使われている『いちばん、たいせつなもの。』以外にも2曲書いているんです。
ひとつは薄めのメロディーに、和声で空間を埋めるような映像音楽らしい楽曲。もうひとつがSEを中心にした、環境音楽っぽい都会的な楽曲。それから、動画のコンセプトになっている親から子へ向けたぬくもりある視線に加えて、音楽教室に通う子どもたちにフォーカスした、童謡的な雰囲気を込めたピアノと弦楽四重奏の音楽。採用になったのはこの曲です。楽曲の雰囲気もありますが、開始5秒で掴む音楽というのも重要で、そのあたりがこの楽曲にはある、ということで採用されたとうかがいました。
●「童謡」のイメージで作られているんですね
メロディーを「大きく太く」を意識しました。ですが、メロディーや和声に非和声音を多く取り入れたり、調性を揺らしたり、童謡の中でも滝廉太郎のような、小学校高学年向けのフランス系の楽曲のようなイメージとも言えばいいでしょうか。もっと言えば、僕が勝手に持っている「ヤマハの教材に載っている曲」をイメージし、インストゥルメンタルとして映えるようなものを目指しました。
●できあがった映像を見て、どんな感想を持たれましたか?
まずは自分の曲が映像作品になったことに、「こっぱずかしい」という想いが一番(笑)。
それから、実は絵コンテにはなかった、小さい子の演奏シーンがあったのでびっくりしたんですよ。中学生がこの楽曲のピアノを弾くシーンが用意されていたので、そのつもりで書いていたんですが、実際にはもっと小さな子役さんが僕の曲を短期間で頑張って練習してくれたと思ったら、すごく嬉しかったですね。
映像音楽の制作は新鮮&自分向き!?

●映像作品への音楽提供は初めてということですが、いつもの音楽制作と違ったことや、苦労した点などはありましたか?
今回はDTMでの制作で、ピアノと弦楽四重奏、すべて打ち込みです。最近はエレクトーンで弾く音楽であってもDTMで作り始めることがあるので、作業的な部分ではふだんと大きな違いはありませんでした。
映像作品というと映像に「0コンマ何秒でぴったり合わせて」なんてよく聞きますが、今回は音先行ということもあり、絵コンテに合わせて僕が曲を作り、映像のほうを合わせてもらいました。
苦労というほどではないですが、仮で作った段階で2分前後の曲だったんですね。即興演奏でもそれなりのボリュームで僕たち演奏するじゃないですか。パッと思いついたものがある程度の長さになるDNAができあがってるんですよ、きっと(笑)。なので、動画サイズに曲を作りこむためにどう削るかというのは、あまりやったことがない作業ではありました。
●初めての映像音楽の制作、手応えはいかがでしょう
これまでは人前で演奏することを前提とした音楽を基本的に書いてきたので、映像媒体の、短いサイズ感である楽曲を作ることはすごく新鮮でした。
自分が作ったものが世に出るという感覚は、やっぱり何にも代えられない。ものすごくモチベーションにつながります。音楽に限らず、自分が携わったものが世に出ることって、誰にとっても大きな喜びだと思いますが、それが音楽で、しかも初めての映像媒体で叶ったことが、とてもうれしいです。
●作家としての幅がより広がった中野さんの、今後の活動がまた楽しみです
実は僕、これまで映像音楽の制作ということに、そんなに興味がなかったんです。ところが今回やらせていただいて、「意外に向いてるのかも!?」と思えて。エレクトーンプレイヤーとしても、もともとジャンルに制限を付けず、なんでもやりたいという姿勢でいますし、引き出しの数は多くしているつもり。それが今回生かせた感じがしたんですよね。
今回採用にはなりませんでしたが、環境音楽ももっとやってみたいと思いましたし、CM音楽のクリエイティブなイメージも膨らんだので、新しい扉を開くきっかけになりそうです。
音楽の勉強で、やって損なことなんてない

●最後に、音楽を学ぶ子どもたちへメッセージをお願いします
子どもだけに限りませんが、「食わず嫌いにならないこと」を実践してほしいですね。なんでも見て、聴いて、学んで。好き嫌いは誰にでもありますが、音楽を生業にしたいのならば、それはダメ。
僕はジャズ、クラシック、打ち込みと方向性のまったく違う3つの軸を中心に勉強してきましたが、今回の音楽制作はどれが欠けても成り立たなかったと思うんです。正直、和声の勉強が活用できる場面は、僕の活動の中ではあまり多くはなかったんですが、今回はものすごく生かせましたし、やっぱり音楽の勉強はしていて損なことなんてない。必要になったときに勉強し始めても間に合いませんから、なんにでも興味を持って勉強していくことが大事だと思います!
―インタビューを終えて
表裏なく、飾らない言葉で質問に答えてくれた中野さん。いつもオシャレで、そのファッションと同じくカメレオンのように(笑)、いろいろなジャンルの音楽を生み出す若手プレイヤーは、たくさんの内なる引き出しから、今回も素敵な音楽を選び出しました。ウェブ動画、ぜひチェックしてみてください。