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音楽経験が子どもの発達にもたらすもの
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 准教授/脳科学研究所

※記事掲載時点の情報です

幼児〜児童期の音楽経験が与えるものとは

音楽家が特別なパフォーマンス能力を持つことは、かなり以前から心理学や脳科学の分野で注目されてきました。そして音楽家の認知能力や脳活動が非音楽家とはどのように異なるのかについて、さまざまな研究が進められてきました。そこからたとえば、音楽を聴いたときだけでなく言語音声を聴いたときにも、課題成績や脳活動が一般の人とは異なることなどが明らかになってきました。

では、そのような違いは赤ちゃんや子どもにも見られるのでしょうか?楽器の演奏や合唱などの音楽教育を受ける、あるいは家庭で音楽を聴いたり親に歌いかけてもらったりすることは、子どもたちの発達にどのような影響をもたらすのでしょうか。
今回は、まず多くの研究が行われてきている、幼児期後半から児童期(4〜12歳)について見ていきたいと思います。

音楽を聞き取る力と言語能力の関連性

音楽に注意を向けて聴く経験を積み重ねると、言語音声を聴くことも得意になるという報告があります。音楽教育を受ける中で、ピッチの近い音同士をはっきりと区別したり、メロディーを覚えたりといった訓練を継続的に行った場合、この学習効果が言語音の聞き取りに対しても良い影響を及ぼすというのです。
4〜5歳児を対象とした研究※1では、音楽を聞き取る力と言語能力にかかわりが見いだされています。まず言語能力のテストとして、「cat(キャット)」を聞いたら、「hat(ハット)」「bat(バット)」のように韻を踏む単語を、思いつくかぎりいってもらう課題などが行われました。一方音楽能力のテストは、リズム、メロディー、和音について、2つのサンプルを続けて聞いてから、それらが同じか違うかを答える、という課題などでした。

子どもたちの成績を比較してみると、言語の音に関する知識と音楽能力の間に関連があることが分かりました。単語の音を分析することが得意な子どもは、音楽のリズムやメロディーを分析する能力も高かったのです。

また小学生についての研究の中には、語彙獲得に対する音楽教育の効果を指摘するものもあります。3年以上ピアノ演奏の教育を受けた子どもたちは、学校内外でまったく音楽教育を受けてこなかった子どもたちに比べて、知っている単語の数が多かったのです※2

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「音」という共通点を持つ音楽と言語は、学習の効果が移りやすいと考えられています。特に幼児後期からでも音の能力に関しては、音楽と言語に通じるものがあるようです。また児童期には、語彙数にも関連が見られました。こうしたポジティブな研究結果が数多くあるために、音楽を聴いたり学んだりすると、すぐに言語獲得にも効果が見られそうな気さえしてしまいそうです。しかし、音楽教育の内容、期間、頻度、開始時期、言語のどの能力なのか、そして子どもの年齢や発達段階といったさまざまな要素によって、効果は異なるはずであることに留意したいものです。

知能(IQ)

言語以外の能力についても、音楽教育の影響が示されているものがあります。
4〜6歳の子どもたちに、週に75分間の親子参加型音楽プログラムに7か月半来てもらい、期間終了後に知能テストを実施した研究があります。そしてプログラムを受けた子どもたちの記憶力の成績は、受けなかった子どもたちよりも高くなっていたことが報告されています※3

また6〜11歳の子どもたちと大学生の知能テストの結果から、幼児・児童期に音楽教育を受けた経験は、知能テストの成績にさほど大きくはないものの、影響を及ぼしていることが分かりました。そしてこの影響は、大学生になっても持続するほど長期にわたるものでした。
数学の成績との関連も見られると長年考えられてきましたが、現在までの研究では影響の有無いずれについても報告されています。言語と同様に、複数の要因に気を配る必要がありそうです。

社会性

社会性とは、他者とかかわりながら生きていく上で、相手の心の内を推し量る、自分の意志や考えを調整しながら伝えたり抑えたりする、周囲に適度な関心と協調性を示す、などの社会的能力のことです。こうした社会性の発達に、音楽は果たしてかかわるのでしょうか。

小学校に入ると、音楽の授業や課外活動などで、合奏や合唱を経験する機会が増えます。こうした活動に参加している子どもたちを調査した複数の研究から、両親や教師と多く会話をする、達成感を得て自信や満足が高まる、活動自体を目的として自発的に取り組む意欲が高い、といった傾向が、共通して見られることが明らかになりました※4。グループで目標を達成しようと努力し、それに向かって協力し合う課程が、社会性を育むことにつながるといえそうです。

ではこうした効果は、音楽以外の活動には見られないのでしょうか。サッカーなどのスポーツや演劇などにも同様のことがいえるかもしれません。これらの課外活動との比較を行った研究はまだ少ないのですが、ほかの活動に比べて音楽の活動の方が影響は大きいという報告も出ています。

ここで少し視点を変えて、音楽の進化に目を向けてみましょう。音楽は古来より、人間の集団内の結び付きを高め、共同作業をスムーズにする機能を持ってきたと考えられています。たとえば、求愛、狩り、子の世話、宗教、などさまざまな場面で、音楽は重要な役割を果たしてきました。こうした歴史を考えると、音楽を共に演奏するという活動そのものが、子どもたちの仲間意識や自己肯定感の発達に促進的な作用を及ぼしている、そのような可能性があるのかもしれません。

子どもの発達については、ここで取り上げたほかにも、創造性や運動・操作能力など注目すべき能力があります。さまざまな地域や条件のもとで、研究を続けていく必要があり、まだまだゴールは先のようです。
次回は、赤ちゃん=乳児期の発達と音楽経験のかかわりについてご紹介します。

  • ※1 Anvari S.H., Trainor L.J., Woodside J. and Levy B.Z. (2002). Relations among musical skills, phonological processing, and early reading ability in preschool children. Journal of Experimental Child Psychology, 83, 111-130.
  • ※2 Piro, J.M. & Ortiz, C. (2009) The effect of piano lessons on the vocabulary and verbal sequencing skills of primary grade students, Psychology of Music, 37(3), 325-347.
  • ※3 Schellenberg, E. G. (2006) Long-term positive associations between music lessons and IQ. Journal of Educational Psychology, 98(2), 457-468.
  • ※4 Hallam, S (2010). The power of music: Its impact on the intellectual, social and personal development of children and young people. International Journal of Music Education, 28(3), 269-289.
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著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
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梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 准教授/脳科学研究所
専門:発達心理学
著書・論文

  • 新・子どもたちの言語獲得(分担執筆)小林春美・佐々木正人(編)大修館書店

  • なるほど!赤ちゃん学―ここまでわかった赤ちゃんの不思議―
    (分担執筆)玉川大学赤ちゃんラボ(編)新潮社


 
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