おなかの中の赤ちゃんの聴覚器官は、妊娠5カ月になるころにはほぼ完成しています。生まれてすぐから、胎内で聞いていたお母さんの声を聞き分け、お母さんやお父さんが話しかける声や歌いかける声にとくに反応するようになります。こうして母語(赤ちゃんの生育環境にある言語)を聞き分けるようになります。
また、赤ちゃんは生育するに従い、まわりから聞こえるさまざまな話し声の中から、単語を取り出して聞き取り、その音の特徴や意味を自分で覚えて、言語を獲得していくという、驚くべき学習を行っています。この言語獲得を助けるのが「マザリーズ」です。
マザリーズは専門的には「対乳児音声=Infant Directed Speech」ともいわれます。ゆっくりしたテンポで抑揚を大きく取り、赤ちゃんの反応を待つように相づちを打つ、声の高さや響きをさまざまに変化させ、赤ちゃんの名前を何回も呼んだり、1つの単語を引き伸ばしたり、歌いかけるように話したりするなど、さまざまなバリエーションで話しかけます。普通のトーンで話しかけるよりも赤ちゃんの関心を引くことができ、赤ちゃんにとっても聞き取りやすく、理解しやすいので、言語の獲得にはこうしたお母さん、お父さんの語りかけがとても重要です。
いかがですか? マザリーズを知らなくても、赤ちゃんに語りかけるときは、自然にこういう口調になっていたという方も多いのではないでしょうか。ただ、少し「マザリーズ」を意識して語りかけてあげると、赤ちゃんがより注意して聞くようになりそうですね。これからも、赤ちゃんの表情の変化や声などの反応を見ながら、たくさん語りかけてあげましょう。
志村 洋子(しむら ようこ)
所属:埼玉大学名誉教授、同志社大学赤ちゃん学研究センター研究員
専門:博士(教育学)、乳幼児音楽教育学、声楽