ヤマハでは「子どもが自然に音楽に親しみ、無理なく吸収していくにはそれぞれの子どもの発達に応じた教育の内容が大切」という考え方を重視しています。この考え方を「適期教育」と呼んでいます。
赤ちゃんが寝がえりをうち、ハイハイをし、立って歩くように、発達には段階があります。物をつかむことができるようになったばかりの赤ちゃんにはまだピアノを弾くことが難しいように、何かができるようになるにはそのための身体的・精神的な準備が必要です。
では、音楽を学ぶためにはどのような力が必要なのでしょうか。
音楽学習にはさまざまな能力が関係しますが、ここではとくに重要となる以下の3つの力に注目しています。
●メロディ、リズム、ハーモニーなどを感じ取る力、それによって音楽を聴き分ける力
●鍵盤楽器などを演奏するために必要な手指の器用さ
●楽譜を読み、理解する力
ヤマハ音楽研究所では、音楽に重要な3つの力の発達に関して2021~2022年に先行研究調査を行いました。子どもがストレスを感じることなく音楽を学ぶためにはいつどのようなことを学べばいいか、すなわち「適期教育」の目安となる「発達曲線」を作成するためです。近年の海外のジャーナル(論文)を中心に膨大な数の研究論文を検討した結果、全33本の論文より子どもの能力が年齢とともにどのように発達していくかを示した「発達曲線」を策定しました。
発達曲線は、3つの曲線で構成されています。
①「音楽を聴き分ける力(音感)」についての発達曲線
音楽を聴き分ける力(音感)にはさまざまな要素があります。音楽を聴き分ける力とは、リズム、メロディ、ハーモニーといった音楽の3要素や、楽曲の形式や構造、楽器の音色など音楽にかかわるさまざまな要素を認知する力で、一般的に「音感」と呼ばれています(狭義には「音感」は、音高・音価・強弱を聴き分ける力とされています)。
今回はピッチ(音程)・ハーモニー研究とリズム研究を分けて調査し、それぞれの発達を総合的に判断してひとつの曲線が作られました。
②「手指の器用さ」についての発達曲線
モノに手を伸ばす、ハンマーでペグをたたく、ブロックを同じ形の穴に入れるといった操作のほか、打楽器や鍵盤演奏などの様子を観察したもの、神経系の論文などからエビデンスを集め、手先の器用さがどう発達していくかを見たものです。
③「楽譜を読む力」についての発達曲線
楽譜が読めるかといったことに加え、リズムの再現や聴いた音を覚えておく力についても考慮されています。
グラフの横軸は年齢、縦軸は発達の度合いで、生まれたときをスタートとして一般的な大人の能力を100としたときにそれぞれの能力がどの年齢段階でどのように伸びていくかを示しています。
策定された3つの曲線からは大きく以下の5つのことがわかります。
1.音楽に関する能力は「音楽を聴き分ける力(音感)」「手指の器用さ」「楽譜を読む力」の順に発達する
2.3つの曲線(能力)はすべて9歳まで上昇をたどる
3.音楽を聴き分ける力(音感)は3~5歳で急成長する
4.手指の器用さは3~7歳で急成長する
5.楽譜を読む力は5~8歳で急成長する
以上のことを踏まえれば、たとえば3歳では最も成長している音感を伸ばすことを中心に学習を組み立て、鍵盤・読譜は子どもたちのストレスにならない範囲で行うということが子どもにとって楽しく効果的な学習となるといえるでしょう。もちろん、能力の発達には個人差があるので、子どもたち一人ひとりの成長を見極め、個々の発達段階に応じた長いスパンでのレッスン、つまり「適期教育」の考え方を実践できるレッスンノウハウが必要になります。
ヤマハ音楽教室には、半世紀以上にわたって研究を重ね、世界40以上の国と地域で展開されてきたカリキュラムと、子ども一人ひとりが生き生きと音楽を楽しめるような指導法をマスターしたたくさんの講師がいます。「適期教育」の実践は、子どもたちに音楽とともにある豊かな人生をもたらしてくれるでしょう。
(ヤマハ音楽研究所)
>音楽を聴き分ける力(音感)について(曲線の詳細①)
>手指の器用さについて(曲線の詳細②)
>楽譜を読む力について(曲線の詳細③)