実は「音感」という日本語は、研究者の間でも説明の難しい言葉で、外国語には置き換わる言葉がありません。辞書で調べると「You have a good ear for music(よい耳を持っている)」という意味になりますが、何についてのよい耳か、という疑問が生まれますね。
たとえば目についても似たような表現があります。単に「目がよい」だったら「視力がよい」ことを想像しますが、「動体視力がある」「視野が広い」といった測定できるよさを言う場合、偽者と本物を見極める審美眼的なものを指す場合であったりします。しかし、「よい耳」についての話をしようとして、そういうふうに対応できるかというと、意外にできないんです。
音楽研究者は「耳の力」をあらわすために、測ることができる力に焦点を当てて、それを測ってみようとしました。シーショアの「音楽能力テスト」や、ゴードンの「音楽適正プロフィール」などが有名です。私自身も、先行研究を参考に「新アジア版音楽適性テスト」を作りました。
音楽テストは、音色や音量、旋律、テンポなど、いくつかの項目に分かれていますが、そうした「音楽要素を聴き取れること」が音感なのかと問われたら、「音感と言えなくはない」「音感に含めてもいいかもしれない」とお答えするでしょう。
たとえば、わずかな音程の違いも聞き分けることができる人がいたとして、その人のことを「音感がよい」と言うことはできますが、それが聞き分けられない人のことを「音感が悪い、ない」とも言えないのが難しいところです。
「音感」のとらえ方の幅は研究者によってもさまざまで、ひと言では定義づけられないほど複雑な要素が多いということがわかりました。次回も、引き続き音感についてお話を伺いたいと思います。お楽しみに!
小川 容子(おがわ ようこ)
岡山大学大学院 教育学研究科 教授
専門:音楽教育、音楽認知心理学