6カ月の赤ちゃんに、お母さんが話している映像と、歌っている映像を見せた実験があります。赤ちゃんはどちらの映像を熱心に見たでしょうか。答えは、歌っているほう。また、赤ちゃんに歌を聴かせると、ごきげんな状態が長く続くというデータもあります。赤ちゃんは音楽が大好きなのです!
では、子どもにはどんな音楽を聴かせるのがいいのでしょうか。クラシック?童謡?ママやパパが好きな音楽でもいいの?
梶川先生によると、子どもへの音楽の影響は、ジャンルよりも頻度のほうが大きいのだとか。たとえば、くり返し聴いた曲を好きになることで、新しい曲にも興味を示すようになります。聴き慣れた曲は、こまかい部分まで聴き分けるなど、学習も進みます。どんな音楽を好きになるかは、家庭での音楽経験にプラスして、子どもの個性も関係してくるようです。
また、子どもは発達段階によっても音楽の楽しみ方、参加のしかたは変わってきます。個人差はありますが、次表を参考にしてみてください。
表1 音楽への参加の発達変化
年齢 | 音楽への参加 |
---|---|
0歳 | 大人の歌声を聴く。合わせて声を出す |
1~2歳 | 音楽に活発に反応する。部分的に歌う |
2~3歳 | 1曲歌えるようになる。1人で歌える |
3~5歳 | 合唱や輪唱ができるようになる |
乳幼児期から音楽に親しんでいると、言語能力が発達しやすいという研究がありますが、CDやDVDをかけっぱなしで、長時間聴かせればいいというわけではありません。ママやパパの表情や身体の動き、声などでコミュニケーションをしながら聴くことが大切です。
1.音楽で気持ちの変化を楽しむ
音にも快いもの、不快なものがありますが、赤ちゃんは生理的に「快」の音を聞くことを好みます。ママやパパが聴いていて心地よい、楽しい気持ちになれる音楽を一緒に聴いて、表情や身体の動き、言葉などでその気持ちを共有しましょう。5歳になると、楽しい曲調や、悲しげな曲調など、大人と同じように、音楽から感情を理解できるようになります。
2.音楽を聴きながら身体を動かす
音楽には、曲やリズムに合わせて踊ったり、身体を揺らしたり、手拍子をするなど、身体を使った楽しみ方もあります。子どもにとっては、身体の動きと音楽的な表現、音楽を感じ取ることが結びついているという研究もあります。
赤ちゃんのうちは、抱っこして曲に合わせて優しく身体を揺らす、リズムに合わせて身体にタッチするのもいいでしょう。子どもが自分で動けるようになってきたら、歌に合わせて大人も一緒にジェスチャーをしたり、手拍子をしたりして、身体を動かしましょう。
最近では、音楽と絵本がセットになった「歌えほん」を見かけることがあります。童謡の歌詞をもとに絵が描かれていたり、絵本にCDが付いていたり、さまざまな種類があります。子どものお気に入りの絵本に出てくる言葉に、ママやパパがメロディーをつけて歌ってあげるのもいいですね。
具体的な「歌えほん」の楽しみ方を、童謡「山の音楽家」を例にご紹介します。
1.ことばで参加する
まずは音の面白さを味わいます。「山の音楽家」ならバイオリンの音色をあらわす「キュキュキュッキュッキュッ」「ポポポポロンポロンポロン」など。その音から動物たちが演奏している様子や、楽器のイメージをふくらませていきます。歌詞に含まれていない音の繰り返しやリズムもいろいろ試してみましょう。
2.動きをマネする
リスやうさぎになりきったり、バイオリンやピアノを弾くまねをしたり、歌の世界の登場人物になって音楽を楽しみます。
3.歌や絵本の世界と現実の橋渡しをする
実際に動物園でリスを見たときに「これがリスさんだね」と声をかけたり、楽器売り場でバイオリンを見たら「これがリスさんが弾いていたバイオリンだよ」と教えるなど、歌や絵本の世界と現実の世界をつないであげます。
子どもは、好奇心を原動力にした遊びを通じて世界を知り、学び、生きていく能力をはぐくんでいきます。その過程で、子どもの物事への興味の向け方には個人差があり、生まれ持った気質を「図鑑型」と「物語型」の2つに分類する研究があります。
表2 子どもの興味の向け方の個人差
図鑑型(モノ志向) | 物語型(人志向) | |
---|---|---|
新しいものを見たとき | じっと見る/かかわる 「これは何だろう?」 | 親に寄り添う 「ママはどう思う?」 |
傾向 | 自分で分析したい! | 人とのコミュニケーションが大事! |
言語獲得 | 名詞を多く獲得する傾向 | あいさつなど日常語や気持ちを 表現する語を多く獲得する傾向 |
(内田伸子「発達の心理―ことばの獲得と学び」サイエンス社 2017年に基づき作成)
音楽を聴かせたり、歌いかけたりしたときに、あまり興味を示さないように見える子でも、楽器にはとても興味があるとか、音をじっくり聴きたいタイプなのかもしれません。ママやパパは、その子に合った音楽の楽しみ方を模索してあげられるといいですね。
子どもは日々、新しい世界と出会い、新しい発見をしています。周囲とコミュニケーションをとってイメージを共有したり、自分の発見を大好きな人に伝えようとします。そうやって試行錯誤を繰り返すことで、想像力&創造力ははぐくまれていきます。音楽はそれを助ける心強い味方となってくれるでしょう。
※本記事は2018年8月31日、ヤマハ音楽研究所のイベント「子育て×音楽―音楽でより深まる親子のきずな―」にて行われたセミナーの内容を抜粋・再録したものです。
ヤマハの「音育」(音楽を通してこころを育てる)についてご紹介しています。
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 教授/脳科学研究所
専門:発達心理学