勉強をするときや、何かの作業を行うときに、BGMとして音楽を流す人も多いでしょう。音楽は人の感情に働きかける作用を持つので、聴く側が覚醒したり、気分が変化したりすることで、作業効率や記憶、学習に影響を与えるといわれています※1。この効果を、研究に用いられた曲がモーツァルトだったことから「モーツァルト効果」と呼ぶことがあります。
ある研究※2では、大学生がモーツァルトのアップテンポの曲(ソナタ)を聴いた後に、知能テストの一部を行った場合と、音楽を聴かないで行った場合を比較したとき、聴いた後の方が成績が上昇しました。ところが、アルビノーニのスローテンポの曲(アダージョ)を聴いた後には上昇が見られませんでした。
それでは、子どもの場合はどうでしょうか? 日本人の5歳の子どもたちにモーツァルトやアルビノーニの曲を聴かせて、その後にお絵描きをさせるという実験が行われました。結果はモーツァルトもアルビノーニのどちらも聴取後のお絵描きの作業効率は上昇せず、作業効率が最も上昇したのは、童謡を歌うか聴くかした後だったそうです。童謡を歌ったり、聴いたりした後には、長い時間集中してお絵描きをしただけでなく、力強く創造的な作品を描き上げることができました。
このことから、BGMが子どもの作業に影響を与えるか否かは、好みや聞きなじみがあるかどうかが関わっている可能性があります。モーツァルトの曲だけに何か特別な秘密があるというわけではなさそうですね。
次に、6カ月と1歳6カ月の赤ちゃんに行った実験をご紹介しましょう。
モデルとなる行動を、赤ちゃんの目の前で実演して見せた場合と、同じ行動をBGMつきのビデオで見せた場合で、一定の時間をおいてから、モデル行動を赤ちゃんが再現できるかどうかを調べました。その結果、音楽の有無や月齢にかかわらず、目の前で実演して見せた場合には、モデルとなる行動を赤ちゃんがとることが多かったのに対して、ビデオで見せた条件では行動を再現することが少なかったのだそうです※3。
しかし、ビデオ中の効果音やBGMをビデオ内容に合わせて変更すると、ビデオを見た場合でも、モデル行動をとることが増えました。理由としては、ビデオ内のBGMが映像内容とマッチしていないと子どもにとっては処理に負担がかかり、学習ができなくなったということが考えられます。
音楽は気分を上げたり、コントロールしたりする機能がある一方で、ほかの情報との組み合わせによっては、学習や記憶を邪魔してしまうことがあることがわかりました。特に赤ちゃんの場合は、情報処理能力が限られているので、BGMが学習を妨げることもあるのだそうです。
とはいえ、それほど神経質になる必要はありません。赤ちゃんや子どもになじみのある曲や好きな曲、パパやママが好きな曲を繰り返し一緒に聴いたり、歌いかけたりすることを楽しんでください!
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 教授/脳科学研究所
専門:発達心理学