子どもがワガママを言ったり、いたずらが過ぎたり、危ないことをしたりしたときは、大きな声で叱る、という方も多いと思います。でも実はそんなとき、子どもの脳には親の「伝えたいこと」が届いていないことがほとんど。大声で叱られた子どもは、「あぁ、やっちゃったな…」という感情は持つことができても、「何を言われているのか」は、理解できていないことが多いのです。
子どもの脳は「大声」などの強い刺激が与えられると、“感情系脳番地”が興奮し、そこに働きが集中してしまいます。そのせいで、本来相手の話をしっかり聞き入れるはずの“聴覚系脳番地”、内容を理解するはずの“理解系脳番地”は、働きがストップ。すると、子どもは何について叱られたのか、どうして叱られたのか、その内容がわからないままになってしまうのです。
ですから、大事な場面で子どもに何かを伝えるときは、「ささやき声」で話すのが効果的です。小さな声では話を聞いてもらえないのでは……と不安になるかもしれませんが、むしろ大きな声より耳元でささやくことで子どもの注意を引きつけることの方が脳科学的には理にかなっているのです。
そして、もう一つ気をつけたいのが叱る際の言葉。「何回言わせるの!」「まだやってないの?」など、感情のままに放ったネガティブな言葉が耳から入ると、大声と同じく“感情系脳番地”が高ぶり、子どもの脳はフリーズ状態になってしまいます。ですから、叱るときや注意するときは、余計な感情をなるべく入れず、淡々と伝えたい事実を述べるのが正解。そうすることで、子どもの脳に伝えたいことをきちんと届けることができるのです。
もし大声を出しそうになってしまったときは、長く息を吐いてから「さとす」ように話してみましょう。大きな声が出るのは、無意識のうちに息を吸って勢いをつけてしまっているからです。息を吐くことで物理的に大きな声が出せなくなります。そして、「あのね」とだけ言って子どもの注意を引き、息を整え、穏やかな声で語りかければ、話の内容が子どもの脳にすんなり入っていくはずです。
また、瞬時に叱らなければならない時を除いては、子どもが話を聞ける「タイミング」を見計らうことも大切です。タイミングが外れると、お父さんお母さんの「叱り方」ばかりに注意が向けられ、子どもの脳からは、肝心の「何に対して叱られたのか」がすっかり抜けてしまいかねないのです。
特に、子どもが何かに夢中になっていたり、機嫌が悪いときは、親がいくら話しかけたところで聞く耳を持ちませんよね。実は、子どもが「ねえ、ねえ!」「ママ!」と話しかけて来たときが、相手の話も受け入れる“会話の態勢”ができているとき。子どもの脳が「聞けるようになっている」サインなのです。
そして子ども自身の話が終わったときに初めて、“親の言うことを素直に聞き入れられるタイミング”がやってきます。ぜひ、この「子どもが聞く耳を持った瞬間」を見逃さずに、会話するよう心がけてくださいね。
大きすぎる声やネガティブな言葉は、子どもの聞く力を低下させ、話の内容が伝わりづらくなる、ということがわかりました。その他にも、お父さん・お母さんが普段どんな言葉を使うか、どんな聞き方をするかが、子どもの脳の成長に大きく影響してくるそう。次回は、親のどのような言動が子どもの脳の栄養になるのか、についてお伝えしていきます。
※次回は11月に掲載の予定です。
加藤 俊徳(かとう としのり)
1961年新潟県生まれ。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。小児科専門医。昭和大学客員教授。発達脳科学・脳機能生理学・MRI脳画像診断・脳機能計測の専門家。MRIを使って脳を画像化し、独自の方法で分析・診断することで、個人に合わせた脳の育て方やトレーニング法を指導。テレビ・ラジオ番組出演のほか、『脳の強化書』(あさ出版)、『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(青春出版社)など、著書多数。
取材・文:横山 香織(よこやま かおり)
1979年、新潟県生まれ。編集プロダクションを独立後、フリーランスの編集・ライターとして活動。現在は3人の子どもを育てながら、絵本・子育て・健康医療等をテーマに、WEBサイトや書籍、広告媒体で執筆中。