ヤマハ音楽研究所では、乳児期から幼児期の子どもが、お母さんと一緒に音の出るおもちゃや楽器で遊んでいる場面の映像データを、こまかく分析する研究をしています。
「コンパクトグロッケン」などと呼ばれる金属の鍵盤をバチでたたく楽器では、子どもの月齢が低いうちは、お母さんがいくら隣でお手本を示しても、鍵盤本体を引っくり返したり、鍵盤の裏側を触ってみたり。手でたたいたり、バチだけを振ったり、なめてみたりと自由に遊んでいます。
ところが、数カ月が経過すると、子どもがバチを「鍵盤をたたく道具」として扱うような行動が増えて、グロッケンを「音を出すという機能を持ったモノ」としてかかわるようになったのではないか、と思わせる変化が見られたのです。
下のグラフは、ある1人の赤ちゃんの例ですが、月齢が低いころは「探索的で自由度の高い扱い方(緑色の線)」が起こりやすかったことがわかります。ところが10~11カ月ごろになると、「一般的に想定される扱い方(ピンク色の線)」が増えています。
周囲にあふれていた雑多な音や、がむしゃらにモノと戯れる中で起こった音とはちがう「音」や「響き」を知り、特定の音を自ら生み出していくという、音楽的な表現行動の芽生えのようなものがあるのではないかと考えています。
ほかの赤ちゃんについても、おおむね探索行動を経てから、ちゃんとした扱い方になっていく傾向が見られました。もちろん個人差はありますし、分析は継続中ですが、子どもたちのなにげない「音遊び」は、「音の学び」といってよさそうです。
丸山 慎(まるやま しん)
駒沢女子大学 人文学部 心理学科 准教授
専門:発達心理学、認知心理学、生態心理学、音楽心理学