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連載
音楽と脳-脳科学から見た音楽の受容と表出-
佐藤 正之(さとう まさゆき)
三重大学大学院 医学系研究科 認知症医療学講座 准教授/三重大学医学部附属病院 音楽療法室 室長
※記事掲載時点の情報です

脳画像、光るだけでは意味がない。

世は“脳科学”のブームです。脳に関する書物が巷にあふれ、テレビでは「○○は脳に良い!」といった話題がしきりに取り上げられています。そこでは、脳の一部が光っている画像が“科学的証拠”として紹介され、「ほら、○○をしていると脳が活性化している。だから、○○は脳に良い」と結論付けられています。本を読み番組を見る一般人はもちろん、それらを作った著者、プロデューサーも、この結論を当たり前のように受け入れています。

音楽についても例外ではありません。一昔前にマスコミを賑わせた「モーツアルトを聞かせると知能がアップする」といった話のほかに、脳画像を含む“科学的”といわれる“証拠”をもとに、音楽の有効性を説いた報告が数多くなされています。

果たしてそれは正しいのでしょうか? もし正しくないとすれば、一般にいわれていることのどこに間違いがあるのでしょうか? そしてどのように考えるべきなのでしょうか? 本シリーズでは、音楽が脳でどのように受容され表出されるのかを、脳科学の視点から解説します。

脳活動とは?

脳は約150億個の神経細胞でできています。1つ1つの神経細胞の活動は、細胞膜を隔てたイオンの流れで表されます。安静時には、細胞膜の外側にはナトリウム・イオン、内側にはカリウム・イオンが多く存在します。神経細胞が刺激されると膜にあるチャンネルが開き、細胞外にあったナトリウム・イオンが一気に細胞内に流入します。それがきっかけで神経細胞に短い電気活動(例えるなら火花のようなもの。スパイクといいます)が生じ、それがまた次の神経細胞に伝わって…というように、脳内のネットワーク内を広がっていきます。このように、脳の活動の根本は電気活動です。脳波はその電気活動を直接測定します。

脳が活動すると、酸素やエネルギーとなるブドウ糖を消費します。それを補うために、脳血流が増加します。血液は動脈により運ばれ、毛細血管を通って神経細胞の隅々にまで行きわたった後、静脈に集められ心臓に戻ります。神経細胞での酸素や糖の代謝を画像化するのが陽電子断層撮影法 (PET) 、脳血流を測定するのが機能的MRI (fMRI) や近赤外分光法 (NIRS) です。それぞれ時間分解能や空間分解能に特徴と限界があります。一般に、脳波>PET>fMRI>NIRSの順に神経細胞の活動をより忠実に反映しているといえます。つまり脳画像の解釈には、用いられた機器と測定方法についての理解が前提となります。

表1. 脳検査の特徴

 
測定対象
時間分解能
空間分解能
測定・解析
雑音
費用
脳波電気活動なし
PET代謝やや高やや難なし
fMRI血流量やや高
NIRS血液量やや難なし

脳画像が表すもの

では、われわれが目にする脳画像は何を表しているのでしょうか? ここで重要なのは、脳画像が表しているのは“状態の比較”である、ということです。脳画像は普通、「○○をしているときに活性化した」として紹介されます。しかし何もせず横になっているだけでも脳は活動しています。従って「活性化した」というのは絶対値ではなく、何かと比べて相対的に活性化したということなのです。何と比べてでしょうか? 一番よく用いられるのは、「安静時に比べて」です。つまり、最初に何もせず横になっているときの脳活動を測定します(これをベースラインと呼びます)。次に調べてみたい課題を行っているときの脳活動を測定します。後者の脳活動からベースラインの脳活動を、コンピューターを用いて引き算することにより、課題に関係する脳活動だけが残ることになります。

例を挙げましょう。紙を一枚持ち上げる動作をしたときの脳活動を、安静臥位と比べたら脳のどこが光るでしょうか?持ち上げるには腕の動きが必要です。手足の動きを支配するのは反対側の脳ですから、この場合、持ち上げたのと反対側の運動野が活性化するでしょう。紙の手触りや重さを感じる感覚野も光るかもしれません。さらには、運動プログラムを司る前頭葉や運動を調節する小脳にも活性化が見られるかもしれません。

つまり脳画像が表すのは、ある課題を行う際にはベースラインに比べて脳のどこをより使うか、ということです。それ以上でも、それ以下でもありません。いわんや、脳画像で光っていたからといって、その課題がリハビリやトレーニングに有効ということには、まったくなりません。紙一枚を持ち上げることが、腕の筋肉のトレーニングに有効と思う人は誰もいないのと同じです。従って、「○○をしているときの脳画像が光っている。だから○○は脳に良い。」というしばしば見られる表現は、間違いであることが分かると思います。

第1回のポイント

脳画像が表すのは状態の比較。その課題が有効かどうかとは無関係。

著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
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佐藤 正之(さとう まさゆき)
三重大学大学院 医学系研究科 認知症医療学講座 准教授/三重大学医学部附属病院 音楽療法室 室長 専門:神経内科学、神経心理学、認知症医療学
著書・論文
  • 「音楽する脳―音楽の脳科学」 脳とアート:感覚と表現の脳科学。 脳とソシアル、pp.149-166、2012、医学書院
  • 「カルテと楽譜の間から:音楽家くずれの医者の随想」 2011、新風書房、大阪
  • 「アート・イン・サイエンス:医療としての音楽療法」音楽医療研究、5: 1-7, 2012.
 
著書・論文

  • 「音楽する脳―音楽の脳科学」 脳とアート:感覚と表現の脳科学。 脳とソシアル、pp.149-166、2012、医学書院

  • 「カルテと楽譜の間から:音楽家くずれの医者の随想」 2011、新風書房、大阪

  • 「アート・イン・サイエンス:医療としての音楽療法」音楽医療研究、5: 1-7, 2012.


 
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