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音楽経験が子どもの発達にもたらすもの
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 准教授/脳科学研究所
※記事掲載時点の情報です

赤ちゃんにとっての音楽経験

前回は、幼児期から児童期に音楽教育を受ける経験が、子どものさまざまな発達に関連していることを示した研究をご紹介しました。今回は、音楽が赤ちゃんに与える影響に関する報告を見ていきます。

とはいえ音楽教育の分野では、赤ちゃんを対象にした研究はまだ多くはありません。まず赤ちゃん、つまり0〜1歳の乳児に対する音楽「教育」自体が、幼児や児童に対するものほどは実施されていないためです。
また赤ちゃんの能力を評価する場合、「時間や手間がかかる」「保護者の方の意見など間接的な方法に頼らなければならないことがある」という方法上の問題が多いことも一因でしょう。そのような問題もある中で、最近では赤ちゃんの研究も徐々に増えはじめてきています。

赤ちゃんの周りには音楽があふれていますから、それらの音楽をただ聞き流すだけでも音楽経験と呼ぶことはできます。それでも、もっと赤ちゃんの興味をひくような効果的な音楽の聴かせ方があるのなら、そうしたいと思う方も少なくないでしょう。
では「どのような聴き方をするか」ということは、赤ちゃんの音楽に対する反応や、その他の発達に関連するのでしょうか。

どのような聴き方をするか〜音楽経験の質の違い〜

「どのような聴き方をするか」ということは、赤ちゃんの場合、周りの大人からの与え方やかかわり方に大きく依存します。たとえばテレビやCDなどで音楽を一日中流している場合と、短い時間お父さんやお母さんが赤ちゃんを抱っこして軽く揺すりながら歌を歌って聴かせる場合とでは、「音楽経験」に大きな違いがあるように思えます。こうした違いは、赤ちゃんにどのように影響するのでしょうか。

ここでご紹介する研究※1では、調査協力者である6か月の赤ちゃんを2つのグループに分けて、それぞれ異なる音楽経験をしてもらうように設定し実験を行いました。各20組前後でグループを作り、どちらも週に1回1時間の教室に来てもらいます。

1つめの「学習グループ」は、教室の指導者から童謡や子守歌を教わります。そしてその曲が入ったCDを自宅でも毎日聴いて、保護者に積極的に歌をおぼえるようにしてもらいました。このグループでは、歌うことや音楽に合わせて身体を動かすことのほかに、保護者が自分の赤ちゃんの発達的な変化を注意深く観察することで、親子の絆を強めることも意図されていました。

もう1つの「BGMグループ」は、シンセサイザー演奏によるクラシック音楽のCDをBGMとして流しながら、さまざまなおもちゃや絵本などで自由に遊ぶ活動を行いました。このグループにも指導者がついていましたが、音楽に関するカリキュラムは一切ありませんでした。ただし音楽CDを自宅に持ち帰って自由に聴くことが組み込まれていました。つまり赤ちゃんの音楽経験の量は、教室と自宅の両方において2つのグループで同じだったのですが、その内容や質が異なるものであったということができます。

教室をスタートしてから半年後に、各グループの赤ちゃんたちの「音楽に対する反応」「社会性」「コミュニケーション能力」に関する評価が行われました。

まず「音楽に対する反応」として、調性が西洋音階に合っているメロディーと、合っていないメロディーとを聴かせたときの赤ちゃんの注目時間を測定しました。メロディーは、赤ちゃんが音源を注目し続けるあいだは流れ、赤ちゃんの注意がそれると止まる仕組みです。こうして赤ちゃんが2種類のメロディーを聴き分け、どちらかに好みを示すかどうかが調べられました。
この結果、BGMグループの赤ちゃんでは2種類のメロディーに対する反応の違いが見られませんでした。一方、学習グループの赤ちゃんは2種類のメロディーを区別しており、しかも正しい調性のメロディーをより長く聴きたがることがわかりました(図1)。

図1 音楽に対する反応

「社会性」については、「新奇なものに対して積極的」、「よく笑う」、「落ち着きやすい」などの評価において、学習グループの赤ちゃんはBGMグループの赤ちゃんよりも高い得点を示しました(図2)。

図2 社会性の発達の評価

「コミュニケーション能力」についても、指さしやうなずき、だっこ要求の腕伸ばしなどの指標に基づき、学習グループの赤ちゃんの方がBGMグループの赤ちゃんに比べて、身ぶりの獲得が早く発達していることがわかりました。

同じように教室に通い、ほぼ同じ時間、音楽を聴いていたのにも関わらず、なぜ2つのグループのあいだでこのような反応や発達の違いがみられるようになったのでしょうか。
今回の実験だけでは関連要因を特定することはできませんが、ひとつの可能性として親のかかわり方が挙げられます。すなわち学習グループでは、教室でも自宅でも同じ音楽を繰り返し聴いておぼえるように、特に保護者に積極的にかかわってもらうようにしたこと、赤ちゃんの発達を注意深く観察することで親子の結びつきを強めるように働きかけたことなどが、赤ちゃんの反応の違いに関連しているのではないかと考えられています。

保護者の育児への積極的なかかわりや関心が、赤ちゃんや子どもの社会性やコミュニケーション力を育てる助けになるということは、広く理解されていることですし、多くの研究で実証されています。ただし、誰でもいつでも育児に積極的な気持ちをもてるとはかぎらないことも事実です。たとえそのようなときでも、赤ちゃんと大人が楽しくかかわる きっかけやモチベーションの維持のために、音楽は役に立っているのかもしれません。

実際に保護者のどのような働きかけが、赤ちゃんの発達を助けるのでしょうか。次回は、親子のコミュニケーションについてみていきます。

  • ※1 Gerry, D., Unrau, A., & Trainor, L.J. (2012). Active music classes in infancy enhance musical, communicative and social development. Developmental Science, 15, 398-407.
著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 准教授/脳科学研究所
専門:発達心理学
著書・論文
  • 新・子どもたちの言語獲得(分担執筆)小林春美・佐々木正人(編)大修館書店
  • なるほど!赤ちゃん学―ここまでわかった赤ちゃんの不思議―(分担執筆)玉川大学赤ちゃんラボ(編)新潮社
著書・論文
  • 新・子どもたちの言語獲得(分担執筆)小林春美・佐々木正人(編)大修館書店
  • なるほど!赤ちゃん学―ここまでわかった赤ちゃんの不思議―(分担執筆)玉川大学赤ちゃんラボ(編)新潮社
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