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連載
音楽と身体の動きの科学
河瀬 諭(かわせ さとし)
神戸学院大学心理学部准教授/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表
※記事掲載時点の情報です

音楽で身体の動きが変わる

ある曲に合わせるとダンスしやすい。テンポのよい曲を聴いていたらジョギングのピッチがあがった―。音楽を聴いているときに、いつもより身体を動かしやすくなった経験はないでしょうか。今回は、音楽が身体の動きといかにつながっているかをみていきましょう。

音楽の特徴と身体の動き

画像素材:PIXTA

音楽によって本当に身体の動きは変わるのでしょうか?ダンスや体操で色々な曲に合わせて身体を動かしてみると、ぴったりマッチしているときもあれば、なんとなく違和感があるときもあります。流れている音楽によって実際に身体の動きが異なることは、いろいろな曲に合わせて自由に踊ってもらった研究でも実証されています。

フィンランドでの研究では、音楽の様々な音響的な特徴(音楽に含まれる周波数成分やビートの明確さなど)と、踊っているときの動きをとらえたモーションキャプチャのデータがどのように関連しているか調べられました。その結果、例えば、ビートがはっきりしていることと身体の重心の移動速度の関連や、バスドラムやベースに代表される低周波成分と頭部の動きなどとの関連がみられました※1。ほかにも、実験室内をクラブのようにして、バスドラムの音の大小を変化させた研究では、バスドラムの音が大きくなると頭やお尻の動きも大きくなったことが観察されています※2。つまり、たしかに音楽によって身体の動きが変化するのです。

 

いわゆるダンスミュージックでは低音が強調されることもありますが、ヒット曲に含まれる低音成分が、この60年でだんだん大きくなってきているという研究もあります※3。エルビス・プレスリーやジャスティン・ビーバーなどを含む1955-2016年のヒット曲を分析した結果、時代を経るごとに曲の音が大きくなっており、とくに低音成分が強くなっていたのです。人がより踊れる曲を好むようになったのかもしれないと、この研究は考察しています。

 

音楽によって身体の動きが変化すること、そして、身体を動かすのに適切な音楽が存在する可能性は、身体の動きと音楽の関係に注目した現実場面にも活かされています。われわれは、運動生化学の先生方、日本エアロビック連盟の方々、プロの作曲家とともに、ゆっくりとしたエアロビック(スローエアロビック)に伴う、グルーヴィな踊りやすい音楽を監修しました※4。身体を動かすための音楽にこれまでの科学的研究の成果を詰め込んだわけです。このように、音楽と動きのコラボレーションをめぐる知見は、実際の活動に恩恵をもたらしてくれるのです。

運動や療法における音楽の役割

音楽やリズムが身体の動きに影響することを利用して運動などをサポートする試みも多くあります。アスリートが音楽を聴きながら身体を動かしている姿をよく目にしますが、音楽が運動時の様々なパフォーマンスに影響することは多くの研究で報告されています※5。運動前の音楽聴取の影響もありますが、今回は運動中に聴く音楽にフォーカスした研究をご紹介します。

画像素材:PIXTA

ランニング中に聴く音楽のテンポと1分間あたりの歩数を調べた研究では、ランナーにはわからないくらいの微妙なテンポの変化さえ、ランナーの歩数に影響していました※6。この研究では、成人のランナーが800m走を12セット、自分の好きなペースで、1人で走るよう教示されました。そして、走っているときにかける音楽のテンポを本人にはわからない程度に速く/遅くし、そのときの1分あたりの歩数が計測されました。すると、音楽のテンポを上げると歩数が増え、遅くすると歩数が減っていたのです。こうした結果を活かせば、音楽は、運動をスムーズにさせて健康増進につなげるだけでなく、ケガの予防にも役立つかもしれません。

療法分野でも、身体の動きに関する音楽やリズムが応用されています。パーキンソン病などを対象にした研究では、メトロノームや音楽などで歩幅や歩く速度の改善が報告されています※7。音楽は脳卒中での歩行や腕のリハビリテーションなどに影響していることも調べられています※8

 

下の動画は、音楽が有るときと無いときのパーキンソン病の方の動きの違いです※9。音楽が動きに影響していることが如実にみてとれるのではないでしょうか。

 

以上のいろいろな研究からもうかがえるように、音楽を聴くと身体を動かしたくなるだけでなく、実際の身体の動きにも影響します。のみならず、音楽やリズムをうまく用いれば、ダンスやエクササイズなどとの相乗効果も期待できる可能性に満ちているのです。

 

次回は、音楽に合わせて他の人と一緒に動くことによって、人の心理がどう影響されるのかをお話しします。

  • ※1 Burger, B., Thompson, M. R., Luck, G., Saarikallio, S., & Toiviainen, P. (2013). Influences of rhythm-and timbre-related musical features on characteristics of music-induced movement. Frontiers in psychology, 4, 183.
  • ※2 Van Dyck, E., Moelants, D., Demey, M., Deweppe, A., Coussement, P., & Leman, M. (2013). The impact of the bass drum on human dance movement. Music Perception: An Interdisciplinary Journal, 30(4), 349-359.
  • ※3 Hove, M. J., Vuust, P., & Stupacher, J. (2019). Increased levels of bass in popular music recordings 1955–2016 and their relation to loudness. The Journal of the Acoustical Society of America, 145(4), 2247-2253.
  • ※4 征矢英昭 (2019). 1日10分! 脳フィットネスを高める スローエアロビック – DVD付き NHK出版.
  • ※5 Karageorghis, C. I., & Priest, D. L. (2012). Music in the exercise domain: a review and synthesis (Part I). International review of sport and exercise psychology, 5(1), 44-66.
  • ※6 Van Dyck, E., Moens, B., Buhmann, J., Demey, M., Coorevits, E., Dalla Bella, S., & Leman, M. (2015). Spontaneous entrainment of running cadence to music tempo. Sports medicine-open, 1(1), 15.
  • ※7 Nombela, C., Hughes, L. E., Owen, A. M., & Grahn, J. A. (2013). Into the groove: can rhythm influence Parkinson’s disease?. Neuroscience & Biobehavioral Reviews, 37(10), 2564-2570.
  • ※8 Thaut, M. H., & McIntosh, G. C. (2014). Neurologic music therapy in stroke rehabilitation. Current Physical Medicine and Rehabilitation Reports, 2(2), 106-113.
  • ※9 TEDx Talks (2013, May 30). Music on the Brain: Jessica Grahn at TEDxWaterloo 2013. Retrieved from https://www.youtube.com/watch?v=u1vlTI0EsPk
著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
河瀬 諭(かわせ さとし)
神戸学院大学心理学部准教授/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表

専門:感性情報心理学・音楽心理学・認知心理学

著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
URL
著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
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