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研究・レポート
河瀬 諭(かわせ さとし)
大阪大学大学院人間科学研究科 招へい研究員/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表
※記事掲載時点の情報です

グルーヴとは何か

「グルーヴ」という言葉を耳にされたことはありますか。われわれの調査によれば、日本語の「ノリ」に近い用語で、日本では2000年代からより広く使われるようになりました※1

今回はこのグルーヴから、音楽と身体の動きのつながりを掘り下げましょう。

グルーヴの意味

グルーヴという言葉は、音楽シーンのみならず日常的にもいろいろな意味で使われています。音楽知覚・認知の研究では、音楽を聴いて身体を動かしたくなる感覚という定義が多くみられます※2。グルーヴ感の程度について、さまざまな曲を評定した研究では、最もグルーヴ感があるとされた曲はスティービー・ワンダーの「Superstition」(「迷信」)でした※3。また、グルーヴという言葉自体は、音楽ジャンルとある程度結びついているようです。とくに、ジャズやファンク、ソウル、ロックなどで用いられています※4

画像素材:PIXTA

グルーヴの特徴の一つに、身体を動かしたくなる感覚と同時に“楽しさ”を呼びおこす点があります。先ほどのSuperstitionなどの曲を使った研究では、グルーヴがあると評価された曲ほど楽しさの評価も高かったのです ※3。ドラムのリズムパターンを使った実験でも同様に、身体を動かしたくなる感覚と楽しさは関係していました※5※6。楽しくてつい踊りだしたくなるというありがちな経験も、グルーヴの研究によって明らかにされているのです。

これらのグルーヴの研究は、ヨーロッパやオセアニア、アフリカ、日本など、さまざまな地域の人を対象にしています。事実、身体を動かしたくなる感覚を表す言葉は世界各地にあるようです。日本ならノリ、ブラジルではbalanço、スイスはlüpfigなどが、グルーヴに近い言葉だといわれています※7。つまり、グルーヴは地域や人種を問わず、広く人の感覚や行動にかかわっているのです。

 

しかし、日本語のノリとグルーヴが全く同じわけではないように※5、リズムのとらえ方や定義の仕方には文化差があります。したがって、これからのグルーヴの研究では、多様性を考えることも重要になるでしょう。

グルーヴをもたらす音楽の特徴

どのような音楽的要素でグルーヴが起こるのかも研究されています。シンコペーションの度合いがその一例です。シンコペーション度を変えた50種類のドラムのリズムパターンとグルーヴとの関係を調べた研究では、中程度のシンコペーションでもっともグルーヴが感じられていました※6

グルーヴをもたらす音楽的・音響的要素としては、ほかにも、はっきりしたビートや、単位時間あたりの音の数の多さ ※8、低い音(低周波成分)が多く含まれることなどが指摘されています※9。また、グルーヴをもたらす最適テンポの存在も、われわれの研究で示されました。ドラムパターンを使ったこの聴取実験では、8ビートではおよそ125BPM、16ビートでは110BPMあたりのテンポで最もグルーヴが高いと推測されました※5

画像素材:PIXTA

ほかにも、楽器どうし(例:ドラムとベース)のわずかなずれや、楽譜からのミリ秒単位のずれも、グルーヴを起こす要素とみなされることもあります。しかし、このような微妙なずれは、グルーヴに効果あり/ほとんどなしと研究結果が割れています※4, ※10, ※11。謎もまだ多いからこそ、グルーヴの研究はおもしろく奥が深いのでしょう。

 

グルーヴィな音楽をどう生み出すか、あるいはどのように身体を動かしたくなる音楽を現場で活用するか。この悩みは、音楽だけでなく、エクササイズやダンスに携わる方も抱えていらっしゃるかもしれません。グルーヴの研究はその解決の糸口になりえますし、現場のみなさんとコラボレーションしたグルーヴの知見が今後も期待されます。

 

次回は、実際に音楽が身体の動きをどう変えるかということと、運動や療法への音楽の応用についてお話しします。

 

  • ※1 Kawase, S., & Eguchi, K. (2010). The concepts and acoustical characteristics of ‘groove’ in Japan. PopScriptum11, 1–45.
  • ※2 Madison, G. (2006). Experiencing groove induced by music: consistency and phenomenology. Music Perception: An Interdisciplinary Journal24(2), 201–208.
  • ※3 Janata, P., Tomic, S. T., & Haberman, J. M. (2012). Sensorimotor coupling in music and the psychology of the groove. Journal of Experimental Psychology: General141(1), 54–75.
  • ※4 Kilchenmann, L., & Senn, O. (2015). Microtiming in swing and funk affects the body movement behavior of music expert listeners. Frontiers in psychology6, 1232.
  • ※5 Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology9, 462.
  • ※6 Witek, M. A., Clarke, E. F., Wallentin, M., Kringelbach, M. L., & Vuust, P. (2014). Syncopation, body-movement and pleasure in groove music. PloS one9(4), e94446.
  • ※7 Senn, O., Rose, D., Bechtold, T. A., Kilchenmann, L., Hoesl, F., Jerjen, R., Baldassarre A, & Alessandri, E. (2019). Preliminaries to a psychological model of musical groove. Frontiers in Psychology, 10, 1228.
  • ※8 Madison, G., Gouyon, F., Ullén, F., & Hörnström, K. (2011). Modeling the tendency for music to induce movement in humans: First correlations with low-level audio descriptors across music genres. Journal of experimental psychology: human perception and performance37(5), 1578–1594.
  • ※9 Stupacher, J., Hove, M. J., & Janata, P. (2016). Audio features underlying perceived groove and sensorimotor synchronization in music. Music Perception: An Interdisciplinary Journal33(5), 571–589.
  • ※10 Butterfield, M. (2010). Participatory discrepancies and the perception of beats in jazz. Music Perception: An Interdisciplinary Journal27(3), 157–176.
  • ※11 Frühauf, J., Kopiez, R., & Platz, F. (2013). Music on the timing grid: The influence of microtiming on the perceived groove quality of a simple drum pattern performance. Musicae Scientiae, 17(2), 246–260.
著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
河瀬 諭(かわせ さとし)
大阪大学大学院人間科学研究科 招へい研究員/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表

専門:感性情報心理学・音楽心理学・認知心理学

著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
URL
著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
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