ヤマハ音楽研究所では2021~2022年度の研究活動として、国内外のさまざまなデータを精査しエビデンスに基づいた子どもの「発達曲線」を策定しました。策定された3本の曲線の1つが「楽譜を読む力」の発達曲線です。曲線に作成に採用された論文は全6本。その中から「ピッチ」「リズム」「初見演奏」に関する論文を3つご紹介します。
1つめは「ピッチ(音程)」についての研究です。
TommisとFazeyは、1999年に3~4歳の子ども29名に2種類の方法で楽譜(ピッチのみ)の読み方を指導しました。いずれも子どもたちはまず事前テストを受け、その後週2回・20分の指導の8回め、16回め、20回めのあとにテストを受け、さらに最後の指導の7週間後にもテストを受けました。
結果、テストの成績に指導法による有意差は見られませんでしたが、指導を受けずにテストのみを受けた統制群より指導を受けた群のほうが有意に高い成績を得ていました。つまり、指導法によらず読譜の指導の効果があったということになります。
また、成績と年齢との間に有意な相関もみられ、年齢の高い子どものほうがより早く学習することもわかりました※1。
次に「リズム」についても見ていきます。
Shehanが1987年に行った実験では、小学2年生と6年生49名に対し4種類の方法でリズムを提示し、そのリズムパターンを再現するよう求めました。
リズム提示の方法は、
1.ウッドブロック
2.音声(Tan te-ka TON TON…)
3.ウッドブロック+楽譜
4.音声+楽譜
の4タイプです。
それぞれの方法別に、正確な演奏に至るまでに要した回数を記録しました。
その結果、小学2年生では1.ウッドブロックや2.音声といった聴覚的な刺激のみのリズム提示より、楽譜も提示されることでより早く正確にリズムパターンを再現することができるということがわかりました。
また、同じタイプのリズム提示で同じ量の指導を受けたとき、6年生は2年生よりも2倍の速さでリズムパターンを読むことを学習することがわかりました※5。
さらに「初見演奏」についての研究も紹介しましょう。
Kopiezらは、2006年に音楽学部のピアノ学習者52名(平均年齢24.56歳)を対象に、初歩的な認知能力、作業記憶や反応時間、精神・運動能力などさまざまなテストを行い、初見演奏の成績との関係を調べました。
その結果、15歳までに行った初見演奏が382時間より多いと学生の初見演奏の成績がよいこと、つまり、15歳までの初見演奏の累積時間がその後の初見演奏の能力にかかわることがわかりました※6。
以上3つの論文を含む計6つの論文からは以下のことが示唆されます。
●3~4歳頃からピッチを読むことを学習できるようになってくる※1
●ピッチを読む指導から得た情報を保持する子どもの能力は4~10歳の間で線形に増加する※2
●小学1~2年生は楽譜全体を呈示するよりも一音ずつ楽譜を呈示するほうが学習が早い※3
●視覚的に提示されたリズムの再現の成績は1~3年生の間で大幅に上昇する※4
●6年生は2年生よりも2倍の速さでリズムパターンを読むことを学習する※5
●15歳までの初見演奏の累積時間がその後の初見演奏の能力にかかわる。すなわち15歳頃まで発達が続くことが予想される※6
これらの結果を総合的に判断し、矛盾の無いよう作成されたのが以下の曲線です。
この発達曲線から、楽譜を読む力は3歳頃から少しずつ発達し始め、5歳頃から8歳頃にかけ急激に発達していくことがわかります。この発達特性を考慮すると、3歳頃から楽譜に触れ始め、その後8歳頃にかけて段階的に楽譜の情報量を増やしながら学習していくということが子どもたちが無理なく楽しく楽譜を読む力を身に付けていくための方法であるといえるでしょう。
(ヤマハ音楽研究所)