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研究・レポート
河瀬 諭(かわせ さとし)
大阪大学大学院人間科学研究科 招へい研究員/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表
※記事掲載時点の情報です

音楽と身体の動きの基礎

音楽を聴いていて、ウキウキ踊りだしそうになったり、思わず頭や指先を動かしたことはありませんか。このような音楽と身体の動きの結びつきは、古代の舞踊から、船漕ぎ歌、ダンスミュージックにいたるまで古今東西広くみられます。ダンスやエクササイズ、リハビリなどの教育や療法でも、音楽に期待される役割は高まっています。全4回のこのシリーズでは、音楽と身体の動きをめぐる科学的な研究から、両者の関係をみていきましょう。

音楽と身体の動きの深い結びつき

音楽と身体の動きの関係は、どれほど一般的なものなのでしょうか。最近の研究では、自分で音楽に合わせて動けない赤ちゃんの頃でさえ、リズムと身体の動きには密接な関係があるとわかってきました。

 

ある実験では、7ヶ月の赤ちゃん16人が曖昧なリズムを聴きながら、2拍子または3拍子に合わせて身体を動かされました※1。その後、2拍子または3拍子でアクセントのついたリズムを流し、赤ちゃんがどちらの拍子を好むか(好みの指標はどちらをより長い時間見るか)を調べました。すると、赤ちゃんは自分が動いた拍子をより好んだのです。

さらにこの研究では、赤ちゃんが動いている人を見ただけでは、このような好みの違いは出ませんでした。つまり、赤ちゃん自身が動くことが重要だったのです。

 

この結果をふだんの生活にあてはめれば、子守唄などに合わせて赤ちゃんを揺することとリズムの知覚には密接な関係があるといえそうです。拍子の知覚は、ダンスなどで音楽に合わせて身体を動かすための基本です。だからこそ、保護者が何気なく歌い揺すってあやす行為は、実は子どものリズムの感じ方に大きな意味をもつのかもしれません。

 

人以外の動物にも、音楽と身体の動きの関係が観察されています。スノーボールという名前のオウムが、バックストリート・ボーイズの曲に合わせてリズミカルに踊っている様子を分析した研究が代表例です※2

※動画はこちらでご覧いただけます(「Supplemental Data」にてダウンロードしてください)。

 

この実験では、音楽のテンポを変えても、スノーボールはちゃんと拍に合わせて踊れていました。いいかえれば、ただ覚えこんだ動きをしているわけではなかったのです。

 

この結果で注目すべきなのは、音楽はメロディやリズムが含まれた複雑な刺激にもかかわらず、動物が音楽から拍(ビート)を知覚し、それに合わせて動けた点にあります。スノーボールは、ダンスのレパートリーも豊富で、シンディー・ローパーやクイーンの曲に合わせてノリノリで踊る動画でも楽しませてくれます※3

 

 

音楽に合わせて身体を動かす能力はアシカにもあるようです。アース・ウィンド・アンド・ファイアーの曲に合わせて、ロナンというアシカが頭を振っている実験が一例です※4。音楽に合わせて動くという能力は、人ならではのものではなく、実は多くの動物が持っているのかもしれません。

 

 

このような赤ちゃんや動物の研究は、音楽と身体の動きの生物学的つながりを示しています。そして、われわれの進化や音楽の起源を考えるうえで、様々なヒントを投げかけているのです。

音楽に合わせるのが苦手な人もいる

音楽と体の動きが結びついているといっても、音楽に合わせて動くのが苦手な方もいらっしゃるでしょう。事実、ポーランドの大学生99人が音楽に合わせて指をタップした実験では、約10%の人が音楽に合わせてうまくタップできませんでした※5。ADHDの人の中には、音楽に合わせて動くのが苦手な人がいるという報告もあります※6

 

音楽に合わせて動きにくい人を調べた研究では、ほかの人が音楽に合わせて動くのを見ても、それが音楽に合っているか判断しにくい傾向もみられました※7

 

つまり、音楽を使ったダンスや運動のときに先生が動いてお手本を示しても、そもそも動きと音楽が合っているかわかりにくい人もいるかもしれないのです。この研究では、音楽と動きが関連しにくいのは先天的なものかもしれないと指摘されています※7

 

したがって、ダンスや運動などに携わるみなさんには、やる気などとは関係なく、音楽に体の動きを合わせるのが苦手な人が一定数いることを、ぜひ心にとめていただければと思います。

 

次回は、どのような音楽が体を動かしたくなる感覚を生み出すかについて、「グルーヴ」とよばれる感覚を中心にお話しします。

  • ※1 Phillips-Silver, J., & Trainor, L. J. (2005). Feeling the beat: movement influences infant rhythm perception. Science, 308(5727), 1430-1430.
  • ※2 Patel, A. D., Iversen, J. R., Bregman, M. R., & Schulz, I. (2009). Experimental evidence for synchronization to a musical beat in a nonhuman animal. Current biology, 19(10), 827-830.
  • ※3 Keehn, R. J. J., Iversen, J. R., Schulz, I., & Patel, A. D. (2019). Spontaneity and diversity of movement to music are not uniquely human. Current Biology, 29(13), R621-R622.
  • ※4 Cook, P., Rouse, A., Wilson, M., & Reichmuth, C. (2013). A California sea lion (Zalophus californianus) can keep the beat: motor entrainment to rhythmic auditory stimuli in a non vocal mimic. Journal of Comparative Psychology, 127(4), 412-427.
  • ※5 Sowiński, J., & Dalla Bella, S. (2013). Poor synchronization to the beat may result from deficient auditory-motor mapping. Neuropsychologia, 51(10), 1952-1963.
  • ※6 Puyjarinet, F., Bégel, V., Lopez, R., Dellacherie, D., & Dalla Bella, S. (2017). Children and adults with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder cannot move to the beat. Scientific reports, 7, 11550.
  • ※7 Phillips-Silver, J., Toiviainen, P., Gosselin, N., Piché, O., Nozaradan, S., Palmer, C., & Peretz, I. (2011). Born to dance but beat deaf: a new form of congenital amusia. Neuropsychologia, 49(5), 961-969.
著者プロフィール ※記事掲載時点の情報です
河瀬 諭(かわせ さとし)
大阪大学大学院人間科学研究科 招へい研究員/ヤマハ音楽研究所研究員/感性アナリティカ 代表

専門:感性情報心理学・音楽心理学・認知心理学

著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
URL
著書・論文
  • Etani, T., Marui, A., Kawase, S., & Keller, P. E. (2018). Optimal tempo for groove: Its relation to directions of body movement and Japanese nori. Frontiers in psychology, 9, 462.
  • Kawase, S., & Ogawa, J. I. (2018). Group music lessons for children aged 1–3 improve accompanying parents’ moods. Psychology of Music, 0305735618803791.
  • Kawase, S., & Obata, S. (2016). Audience gaze while appreciating a multipart musical performance. Consciousness and cognition, 46, 15-26.
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