古くは、狩りをする際に合唱や合奏、舞踏によって集団の結束を高めたり、儀式で音楽を用いて皆の意思統一を促したりするなど、音楽には仲間同士の結びつきを強め、社会を維持する利点があるとされてきました。現代でも、タイミングを合わせて歌ったり、同じ動きをしたりするなどの経験を共有した相手とは、何かを行う際に協力し合う傾向が強いという報告があります。子どもを対象にした2つの実験結果をご紹介しましょう。
4歳の子どもを対象とした実験では、同性の子ども2名ずつをペアにし、さらに音楽を使うグループと使わないグループとに分けました。音楽を使うグループでは、実験者の行動を2名の子どもがまねをして、一緒に楽器を鳴らしたり歌を歌ったりしながら歩き回りました。一方、音楽を使わないグループでは、ストーリーを聞いたりともに動いたりはしましたが、音楽的な活動はありませんでした。
この後、各ペアで課題を行ってもらったところ、どちらの性別のペアでも音楽を使うグループの方が、お互いに助け合ったり、役に立とうとしたりするなど向社会的行動が多く見られることがわかりました。これは音楽を使ってともに活動することによって、社会性が促進された結果と言えるでしょう。
さらに1歳児(14カ月児)を対象に行われた実験では、赤ちゃんを抱っこひもで抱っこした大人①と、何も持たない大人②が向かい合い、ザ・ビートルズの「Twist and Shout」を聴きながらリズミカルにひざを曲げ伸ばしする動作を行いました。このとき、大人2人のひざの曲げ伸ばしのタイミングが完全に一致する条件と、タイミングがずれる不一致条件のいずれかで赤ちゃんを揺らしました。
この動作の後、大人②が赤ちゃんの前で物を誤って落としてしまったり、ボールに手が届かなかったりして、困っている様子を見せます。このときに、赤ちゃんが物やボールを拾ってくれる援助行動は、タイミング一致条件の場合に多く見られました。
周囲の人たちと音楽を共有し、自分の体を動かしながら音楽を感じとることが、赤ちゃんや子どもの積極性や能動性、社会性の発達に大切だと言えそうです。家庭でも、赤ちゃんを抱っこしながら音楽に合わせてやさしく体を揺らしたり、体を動かしたり、ダンスをするなど、親子で音楽の楽しみ方の幅を広げていきましょう♪
梶川 祥世(かじかわ さちよ)
玉川大学 リベラルアーツ学部 教授/脳科学研究所
専門:発達心理学