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音楽学習に重要な3つの能力の1つが「手指の器用さ」です。鍵盤楽器などを演奏するために必要な能力ですが、「手指の器用さ」はどのように発達するのでしょうか。子どもたちが自然に音楽に親しみ、無理なく吸収していくためにヤマハが大切にしている「適期教育」。ここでは「手指の器用さ」の発達曲線についてエビデンスをひもときます。

音楽学習に重要な能力の発達 ~手指の器用さ~

精査された全12本の論文から導き出せること

ヤマハ音楽研究所では2021~2022年度の研究活動として、国内外のさまざまなデータを精査しエビデンスに基づいた子どもの「発達曲線」を策定しました。策定された3本の曲線の1つが「手指の器用さ」の発達曲線です。参考にされた論文は全12本。大きく4つの分野に分けられます。「神経系」「微細運動」「物体操作」「観察研究」の4つです。

「手指の器用さ」の発達曲線

大脳皮質と脊髄をつなぐ神経回路の伝達速度は11歳頃に成人の水準に達する

まずは「神経系」について見てみましょう。
手足を巧みに動かす機能は「皮質脊椎路」という大脳皮質と脊椎をつなぐ神経回路と関係します。KohとEyreは、妊娠33週(早産児)から50歳までの142名を対象に脳の運動野への電磁波刺激と小指の筋電図を記録することで皮質脊髄路の成熟度を調査した結果「皮質脊髄路の伝達速度は11歳頃に成人の水準に達する」※1という結果を得ました。また、別の論文では「(安静時の中枢運動伝達時間は)7歳まで変動が大きく10歳で安定する」※2「(皮質脊髄路の神経線維は)12歳までに急激に増加しその後緩やかに増加していく」※3といった結果が見られました。
これらの結果から、10~12歳頃には成人とほぼ同様に手を巧みに動かせるようになるということになります。

ペグやビーズを扱う微細運動は7歳までの変動が大きい

次に「微細運動」について見てみましょう。ここでは代表的な2つの論文を紹介します。
1つはWang、Bohannon、Kapellusch、Garg、Gershonらが、3~85歳までの4319名を対象に「9ホールペグテスト」を行った調査で、9つの穴にペグを入れるのにかかる時間を測るものです。その結果「小児期までは年齢とともに短縮し60歳を超えると長くなる」、また「3~5歳まで作業時間が長くばらつきが大きかった」※4ということがわかりました。

もう1つは、Kakebeek、Caflisch、Larg、Jenniらが行った検査です。3~18歳までの616名を対象にペグボードやボルト、ビーズを使った微細運動技能を計測したところ、「7歳までの変動が大きく11歳頃にプラトー(能力の向上が止まり横這いになっている状態)に達する」※5 ※5′ということがわかりました。

対象物に手を伸ばすリーチング動作は2歳でほぼ完成する

「物体操作」についても2つの論文を紹介します。
KonczakとDichgansは、生後5か月から3歳までの9名と成人4名に対し静止した物体に触れるまでの動作を肩、ひじ、手に取り付けたマーカーから記録。物体に向けた手指の軌道(リーチング動作)は2歳までに成人と同程度の直線性を獲得していることがわかりました※7

BerthierとKeenは、生後2・3か月から20か月までの12名が対象物に手を伸ばすときのリーチング動作を記録。生後6か月でリーチング動作に肘が使われるようになり、2歳で成人に近い動きを示すようになるといった結果を得ました※8

さらに、CampbellとScott-Kassnerが2019年に発表した2歳未満から10~12歳の運動能力の発達と適切な楽器の組み合わせについての論文※12など「観察研究」も加えた全12本の論文からは以下のことが示唆されます。

 

●皮質脊髄路の伝達速度は11歳頃に成人の水準に到達する(※1)

●安静時の中枢運動伝達感は7歳までの変動が大きく10歳で安定する(※2)

●皮質脊髄路の白質構造は7歳までに急峻に成長し神経線維は12歳で安定する(※3)

●3~5歳まで作業時間が長くばらつきが大きかった(※4)

●微細運動は7歳までの変動が大きく11歳頃にプラトーに達する(※5)

●4~6歳台から7~9歳にかけて力の安定性が増す(※6)

●リーチング動作は2歳までに成人と同水準に達する(※7※8)

●1~1歳半と2歳頃でブロック挿入の成功率に有意に差があった(※9)

●ハンマーでペグをたたく動作は2歳までに急速にヒット数が上がる(※10)

 

これらの結果を総合的に判断して矛盾の無いよう作成されたグラフが「手指の器用さ」の発達曲線です。

「手指の器用さ」の発達曲線

手指の器用さは鍵盤楽器などの演奏能力に直結する能力だと考えられます。発達曲線からはこの能力は3歳頃から7歳頃にかけて急激に発達していくということがわかります。この発達特性を考慮すると、3歳頃から鍵盤に触れ始め、7歳頃までは無理をせず徐々に演奏の難易度を上げながら学習していくということが子どもにとって楽しくストレスのない鍵盤学習の方法だといえるでしょう。

 

(ヤマハ音楽研究所)

●参考文献

  • ※1 Koh, T. H., & Eyre, J. A.(1988) Maturation of corticospinal tracts assessed by electromagnetic stimulation of the motor cortex. Archives of Disease in Childhood
  • ※2 Fietzek, U., Heinen, F., Berweck, S., Maute, S., Hufschmidt, A., Schulte-Mönting, J. & Korinthenberg, R.(2000) Development of the corticospinal system and hand motor function: Central conduction times and motor performance tests. Developmental Medicine & Child Neurology
  • ※3 Yeo, S. S., Jang, S. H., & Son, S. M.(2014) The different maturation of the corticospinal tract and corticoreticular pathway in normal brain development: diffusion tensor imaging study. Frontiers in Human Neuroscience
  • ※4 Wang, Y. C., Bohannon, R. W., Kapellusch, J., Garg, A., Gershon, R. C.(2015) Dexterity as measured with the 9-Hole Peg Test (9-HPT) across the age span. Journal of Hand Therapy
  • ※5 Kakebeek, T. H., Caflisch, Largo, R. H., & Jenni, O. G.(2019) Zurich Neuromotor Assessment Second Edition (ZNA-2) .
  • ※5’ Kakebeek, T.H., Knaier, E., Chaouch, A., Caflisch, J., Rousson, V., Largo, R.H. and Jenni, O.G.(2018) Neuromotordevelopment in children. Part 4: new norms from 3 to 18 years. Developmental Medicine & Child Neurology
  • ※6 Dayanidhi, S., Hedberg, Å., Valero-Cuevas, F. J., & Forssberg, H.(2013) Developmental improvements in dynamic control of fingertip forces last. Journal of neurophysiology
  • ※7 Konczak, J. & Dichgans, J.(1997) The development toward stereotypic arm kinematics during reaching in the first 3 years of life. Experimental Brain Research
  • ※8 Berthier, N. E., & Keen, R.(2006) Development of reaching in infancy. Experimental Brain Research
  • ※9 Örnkloo, H., & von Hofsten, C.(2007) Fitting objects into holes: on the development of spatial cognition skills. Developmental Psychology
  • ※10 Kahrs, B. A., Jung, W. P., & Lockman, J. J.(2014) When does tool use become distinctively human? Hammering in young children. Child Development
  • ※11 Warrener, J. T.(1985) Applying Learning Theory to Musical Development: Piaget and Beyond. Music Educators Journal
  • ※12 Campbell, P. S., & Scott-Kassner, C.(2019) Music in Childhood Enhanced: From Preschool through the Elementary Grades, Enhanced 4th Edition.
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