脳番地にはそれぞれ伸び盛りの「旬」の時期があります。大きくいうと、脳の前側がアウトプットを担当する脳番地、後ろ側がインプットを担当する脳番地に分類できるのですが、幼児~小学生のうちは「脳の後ろを育てる」という前提が大切。なぜなら、インプットが充実していなければ、いざアウトプットの脳番地が発達の旬を迎えたときに「出せるものがない」「考えるための材料がない」という状態になってしまうからです。
ですから、小さいうちは、視覚系・聴覚系・運動系の脳番地を働かせるため「見る」「聞く」「動く」「触る」体験を出来るだけ多く積ませてあげてください。そうすると、目や耳、手足から入力した情報を材料として、記憶系と理解系の脳番地が働きはじめます。そして、これらの情報を栄養分にして、10歳以降、さらに高度なアウトプットを担当する伝達系・思考系などが育っていくのです。
中でも、私が幼いうちに育てたほうがいいと思うのは「聴覚系脳番地」です。とくに小学生になると、学校生活の指示や授業の内容など、大切なことは「話して伝えられる」ことがほとんど。耳からの情報が多い学校生活では、「人の話をしっかりと最後まで聞いて理解する」という脳の力が必要不可欠だからです。
そして実は「聴覚系」は、先に述べた記憶系以外の6つの脳番地ともネットワークが強力な、脳の要となる脳番地。他の脳番地と連動して成長する傾向があるため、ここが育っていないと、記憶力はもちろん、言語能力やコミュニケーション能力なども育ちにくくなってしまうのです。
逆に聴覚系脳番地が育つと、人の話を聞いて(聴覚系)→内容を理解して(理解系)→行動したり(運動系)話したり(伝達系)する、という知性を生み出す脳内の重要なルートが鍛えられ、さまざまな脳番地を偏りなく、広く使えるようになります。まさに「聞く力」は、脳全体の成長を促すというわけです。
さて、そんな脳の成長スピードをアップさせてくれる「聞く力」ですが、いったいどのように育てていけば良いのでしょうか? 連載第3回からは、子どもの脳の聞く力がグンと育つ、親のふるまい・接し方についてお伝えしていきます。
※次回は7月掲載の予定です。
加藤 俊徳(かとう としのり)
1961年新潟県生まれ。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。小児科専門医。昭和大学客員教授。発達脳科学・脳機能生理学・MRI脳画像診断・脳機能計測の専門家。MRIを使って脳を画像化し、独自の方法で分析・診断することで、個人に合わせた脳の育て方やトレーニング法を指導。テレビ・ラジオ番組出演のほか、『脳の強化書』(あさ出版)、『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(青春出版社)など、著書多数。
取材・文:横山 香織(よこやま かおり)
1979年、新潟県生まれ。編集プロダクションを独立後、フリーランスの編集・ライターとして活動。現在は3人の子どもを育てながら、絵本・子育て・健康医療等をテーマに、WEBサイトや書籍、広告媒体で執筆中。