司会:2014年にON-KEN SCOPEに掲載した「ギネス級!?ホルン演奏を科学する」は大変好評で、多くの読者からコメントをいただいております。お二人からコメントに対するご回答をいただきたいと思いますが、まずは溝根先生から記事に対する感想を伺ってもよろしいですか?
溝根:はい。読み終えてはじめに思ったのは、とても貴重な情報がここには書かれているなぁということです。ホルン演奏に関する情報、特に体の使い方に関する情報は意外に少なく、こうして誰もが見られるホームページ上で公表されていることに感心しました。ホルン奏者は真面目というか、何らかの根拠や知識に基づいてやりたいという人が割合的に多い気がしますし、私もそういう話題が好きです。ただ、書籍としてまとまっているものはあまり見かけないので、ホームページで文字になっているという時点で価値があるものだなと思います。
平野:本当にありませんね。
溝根:プロ奏者や音大生はもちろんですが、部活動で楽器演奏をしている中学生、高校生にとっても、このように読みやすい記事は貴重なものではないでしょうか。
司会:なるほど。アクセス数が多いのもうなずけますね。溝根先生はこの記事の中で、どの部分が印象に残っていますか?
溝根:「プロ奏者でも感覚と実験で得られたデータの間にズレがある」という点は、奏者サイドとしてもなかなか難しいところですね。レッスンのときは自分の感覚に基づいて発言することが多いのですが、それがカチッとはまる生徒だったらぐっと伸びますが、感覚や言葉の違いでしっくりこない場合もあります。そんなときに、数値なり何なりで根拠が示せると「なるほど、そういうことか」となるかもしれない。演奏技術向上にもレッスンにも、引き出しが増えるのはとても嬉しいですね。選択肢は多ければ多いほど良くて、各人が必要に応じて選べばよいと思います。
平野:「調べてみないとわからない」というのが研究者のスタンスです。指導の現場では、同じ生徒の演奏を見ても先生によって全く違うアドバイスになることがよくあります。だから、筋肉の活動とか身体の使い方に関しては、奏者の感覚よりも実験データを参考にした方が正確で理解しやすい場合もあると思います。
溝根:指導のときに、数値なり科学的な根拠があると安心しますね。自分の感覚と科学的な証拠の2つがそろえば、自信を持ってレッスンができる。科学的な根拠に基づいていれば、レッスン方法を思い切って変えることもできます。こうした指導の選択肢が増える点からみても、科学的な検証はとても有意義なことだと思います。
平野:そうですね。科学的な根拠を知れば指導者の考えが変わり、生徒さんへのレッスンの選択肢が広がります。そして科学的根拠に基づいた指導は、生徒の効率的な技術の向上はもちろん、練習による怪我のリスクを軽減することもできる。こうした点を考えると、科学的な根拠にのっとった指導は、楽器演奏を習わせている親御さんにとっても、安心できる材料の一つになるのではないでしょうか?
(司会:ヤマハ音楽研究所)
→「3.科学的に検証されたデータがもたらすもの」に続く(全6回連載予定)
平野 剛(ひらの たけし)
桜美林大学 芸術文化学群 助教
専門:運動制御学、神経生理学、バイオメカニクス
URL:http://takeshi-hirano.com/
溝根 伸吾(みぞね しんご)
東京藝術大学卒業及び同大学院修士課程修了仙台フィルハーモニー管弦楽団ホルン奏者
宮城学院女子大学非常勤講師
Twitter:@mizone_s