学び・教養
2021年03月04日掲載 / この記事は約11分で読めます
大人になって初めてピアノに興味を持ったけれど、何から始めていいのかわからない…。今からピアノを始めて、本当に弾けるようになるのだろうか。
ピアノ初心者だからこそ、さまざまな疑問や不安が心をよぎるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、ピアニストであり指導者でもある渚智佳さんにお話を伺い、ピアノを始める前に知っておきたい3つのポイントや、大人のピアノ初心者が効率よく上達するための5つのコツをまとめてみました。
ピアノはたった一人で壮大な音楽の世界を体験できる、非常に稀有な楽器です。この記事でピアノに興味が湧いたら、ぜひ憧れの曲を素敵に演奏している自分を想像してみてください。
大人が惹きこまれるピアノの魅力とは
子どもの時代は習い事の定番として、そして大人になると人気の趣味として、幅広い年代に愛され続けるピアノの魅力とは何なのでしょうか。ピアノが他の楽器と大きく異なる点は、たった一人でもオーケストラのように音楽の響き全体を形作ることができる点です。弦楽器ならヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスと、同じ弦楽器でもそれぞれ違った音域を担当しますが、ピアノはたった1つの楽器だけで約7オクターヴという広い音域を持ち、それゆえ1台でも表情豊かな表現ができます。
また弦楽器では、まず自分で弦を押さえて音の高さ(音程=ドレミ)を作り出さないといけませんが、ピアノは鍵盤を弾きさえすれば、すぐに決まった音高を出すことができ、音楽経験の有無に関わらず誰でも取り組みやすい楽器です。広い音域と表情豊かな音色を駆使してたった一人で演奏を完成できること、そして小さな子どもから大人まで誰もが気軽に楽しめるといった特性ゆえ、ピアノは誕生から約300年を経た今もなお人々を魅了し愛され続けています。
ピアノ演奏の前に、初心者が知っておきたい3つのポイント
それでは初めてピアノに興味を持った人や、大人になって久しぶりに再開した人が、ピアノを始める前に知っておきたいポイントとはどんなことでしょうか。
自分のレベルに合った楽曲を選ぶ
まずは自分の力量に合った楽曲を選ぶことが大切です。クラシックであればあまり音の多すぎない初級の曲を選び、J-POPなど原曲をピアノに編曲したものを弾く場合は、初心者向けに編曲された楽譜を選んでおくと、演奏したものが形になりやすく、まずは音楽を形作ることができた喜びを実感できます。ピアノの演奏では、音が多く複雑な曲を弾くことだけが重要なのではなく、音が少ない曲でも美しい音色で素敵に、そして音楽的に奏でることが、初心者に限らず演奏者として大切なことです。まずはあまり背伸びし過ぎずせず、自分の力量に合った楽曲を選んでみてください。
指のウォーミングアップを行う
演奏を始める前に、指を少し温め動かす習慣をつけましょう。初心者だけでなく、熟練者でも指のコンディションを整えることは演奏するうえで欠かせません。例えば、まずは演奏前の準備体操としてグー、パー、グー、パーを繰り返し、指の間を広げたり、指を組んで手首をぐるぐる回したりして、指や手首の関節の柔軟性をよくしてみてください。次に「ドレミファソファミレド~」など隣り合った鍵盤を順に弾くなどの単純な動きで均一に指を動かしてみます。指の動きをスムーズにすることで、演奏中に指が回らない・動かしづらい、といったやりにくさを軽減して、音楽に集中できる状態を整えましょう。
イメージを膨らませる
写真提供:PIXTA
そして、ピアノを楽しく続けていくためには、自分の弾きたい曲のイメージを膨らませることが大切です。クラシックでもJ‐POPでも、現在では動画サイトや各種音楽配信サービスで、いろいろな演奏を気軽に視聴することができます。同じ曲でも演奏者によって表現方法もさまざまです。自分の気に入った演奏をもとに、演奏の完成イメージを膨らませてみてください。また、その曲の空気感や情景のようなものを、自分なりに思い浮かべてみるのも良いでしょう。
「自分もこんな風に演奏できたらいいな…」という理想像を持つと、日々の練習にもやり甲斐が感じられるようになり、ピアノ初心者にとって継続するための一番のモチベーション維持につながります。
ピアノ初心者が準備すべき楽器とは
揃える楽器は特に線引きはせず、自分のスタイルに合ったもの選びましょう。グランドピアノやアップライトピアノといった、生の楽器で練習できるのが理想ですが、住宅環境や予算などに応じて、電子ピアノという選択肢ももちろんOKです。
電子ピアノの場合は、鍵盤のタッチ感覚や音色のクオリティにおいてなるべく再現性の高いものがおすすめです。現在のピアノの鍵盤数は88鍵(7オクターヴと少し)がスタンダードですから、もし電子ピアノを選ぶなら、出来れば88鍵ある楽器を選びましょう。ただ、もし置き場所や予算が難しい場合は、まずは低予算で鍵盤の少ないキーボードから始めてもいいでしょう。実はピアノが生まれた300年ほど前は、鍵盤は54鍵(4オクターヴ半)と少なく、モーツァルトの有名な「トルコ行進曲」は、約4オクターヴの鍵盤で演奏することが可能です。(ただしポータブルキーボードはペダル機能がついていないことも多いので要注意です)
そして、もし演奏が少しでも楽しく感じられるようになれば、ぜひグランドピアノに触れ、実際に弦を打って音を響かせる、アコースティック楽器の魅力を存分に感じる機会を作ってみましょう。昨今は、ホールで本格的なコンサートに使用するフル・コンサート・グランドピアノの演奏体験ができる機会も設けられているため、ピアノへの興味や関心が膨らめば、是非一度グランドピアノが作り出す本物の音と感触を体験してみてください。
ピアノ初心者が知っておきたい上達の5つヒント
ここではピアノ初心者に知ってもらいたい、上達のヒントを紹介していきます。「指使い」「タッチ」「メロディーを歌う」など、初めてピアノに触れる方が実践しやすい順に挙げていますので、ぜひ順を追って一つずつ着実に自分の練習に取り入れてください。
指使いを身体で覚える
隣り合った鍵盤に順番に指を乗せ、鍵盤の幅を身体で覚えましょう。鍵盤の幅の感覚が掴めてきたら、少し指を開いてより広い音程を掴んだり、親指をくぐらせて1オクターヴにわたる音階を弾いてみましょう。親指くぐりの際は手首が縦に大きく揺れないように気を付けてください。こうしていろいろな指の動きができるようになると、弾ける曲の幅が広がっていきます。
「指の生理的特徴(関節の開き易さや、動きの効率性)と音楽の流れがうまくマッチした理想的な運指によって、スムーズな演奏が可能になるのです」(渚さん)
タッチを意識する
手はアーチ型にし、手首を安定させて指の付け根からしっかりと指を動かし、鍵盤の底を打つように打鍵するのが基本です。ヴァイオリンなどの擦弦楽器では、弦を弓で擦って演奏するため持続音を増幅することができます。一方ピアノは、鍵盤を打つと内部にあるハンマーが弦を打って音が出る「打弦楽器」のため、一度打った音は基本的には減衰していきます。それゆえに、鍵盤を打つ瞬間に力をどのように込めるかがとても重要です。
「たとえば明確で軽やかな音が欲しい時は鍵盤を素早くはっきりと打ち、反対に柔らかく溶けるような音色が欲しい時にはゆっくりと優しく撫でるように、また重々しい音が欲しい時は指の腹でずっしりと押し下げるように弾きます。どのように鍵盤に触るか、によっていろいろな音色を醸し出すことが可能になります」(渚さん)
左手のみで練習してみる
写真提供:PIXTA
メロディーを弾くことに慣れてきたら左手のみの練習も行いましょう。初心者の楽譜では右手がメロディー、左手が伴奏役を担っていることが多く、左手が止まってしまうと音楽全体も止まってしまいます。左手のみの練習は、華やかなメロディーが鳴っていないので少し地味に感じてしまいがちですが、縁の下の力持ちともいえる左手の練習を重点的に行うことで、曲の流れと響きを美しく整えておくことが大切です。
「左手が安定してよどみなく弾けていれば、低音の響きに乗って右手の高音のメロディーがより美しく映え、また自由にメロディーを歌わせることができるので、演奏の仕上がりも一層グレードアップしますね」(渚さん)
左手がマスターできたら、右手を合わせてみましょう。最初はゆっくりのテンポで「一定のテンポ」を保つよう練習しましょう。右手と左手でどの音を同時に弾くのかをしっかり把握しておくと、拍とリズムがピッタリと噛み合うようになります。
ペダリングに挑戦してみる
ペダルは初心者には少しハードルが高く感じられるかもしれませんが、まずは一度、右のペダルを踏んで、音が長く豊かに響くのを聴いてみてください。ピアノの右のペダルは「ダンパーペダル」と呼ばれ、ペダルを踏むことで弦の響きを止めているダンパーを持ち上げて弦を開放します。ペダルを踏むと音が伸びるのはこのためです。ペダルを使うことで、音と音を滑らかに繋げたり、潤いのある音色を出したり、一気にたくさんの音を重ねてアルペジオで分厚い和音を響かせたり、また音量・音色を豊かにして迫力を出すことも可能になります。
ただし、初心者がペダルを使う時に気になるのは「ペダルで音が濁ってしまうのでは…」という心配です。
写真提供:PIXTA
「ペダルは耳で踏むという意識で、和音の響きが変わるところでペダルを踏みかえる、というのがペダリングの基本です」(渚さん)
足の裏をペダルの表面に吸い付けるようにしておくと、雑音を立てずに踏むことができます。注意深く音を聴きながら、まずはゆっくりとトライしてみてください。
初心者に伝えたい、ピアノが与えてくれる未知の感動とは?
ピアノの曲を1曲仕上げるためには、多くのことを考え、そして実践していかなければなりません。その過程でいろいろな試行錯誤を繰り返すうちに、必ず演奏者自身に「何かしらの変化」が起こります。弾きたいなと思った曲を、自分の頭と心そして全身を通して体現できることは、何事にも代えがたい貴重な体験です。
写真提供:PIXTA
大人になってからでも挑戦できるだろうか。
曲が仕上がるまで、本当に続けられるだろうか。
浮かんでは沈むさまざまな不安や葛藤をひとまず横に置いてチャレンジしてください。音楽を奏でる喜びや、曲を仕上げ弾くことでしか味わえない達成感、そしてピアノがくれる未知の感動を味わうことができます。
ピアノに初めて触れる人、小さな頃に習っていてまた始めようかと考えている人、そんな初心者だからこそ、音楽が与えてくれる心沸き立つ感動を、そしてピアノを通して自分が音楽と一体化しているという喜びをぜひ味わってみてください。
ー もっとピアノについて知りたいと思った方はこちらへ ー
◆「ヤマハ大人のピアノレッスン」に関するご紹介は→こちら
あなたの「弾きたい」に応えたい。ヤマハ大人のピアノレッスンの特長についてご紹介します。
◆YAMAHA MUSIC AVENUE 無料ウェビナーは→こちら
これからピアノをはじめる全ての方に、ヤマハ講師がゼロから教える動画です。
※ヤマハオンラインメンバーへの会員登録(無料)が必要です。
◇お話を伺った方
渚 智佳(なぎさ ちか)
ピアニスト。東京音楽大学講師。
全音ピアノライブラリーCDシリーズでは各種「ツェルニー」や「ソナタ・アルバム」など20タイトルを超える録音を行なう。現代作曲家B.スターク氏の作品集CD「Muse」をアメリカにてリリース。ヤマハ音楽振興会においてピアノ指導者のためのオンデマンド講座、教材曲集の編纂や録音にも多く携わる。演奏活動の傍ら編曲なども手掛け、フォスターミュージックより「R.シュトラウス:英雄の生涯(吹奏楽編曲)」が出版されている。これまでに全日本学生音楽コンクール、園田高弘賞ピアノコンクールなど数々のコンクールで優勝。東京都交響楽団、チェコ・フィル八重奏団はじめ内外のオーケストラやアーティストと共演している。東京音楽大学ピアノ演奏家コース卒業、東京藝術大学大学院修了。