子育て・教育
2019年11月07日掲載 / この記事は約8分で読めます
子どもたちの創造力を育てる場を多く生み出している石戸奈々子さんの活動を紹介する連載。第2回では、実際に石戸さんが作ってこられた多彩なワークショップについて伺います。(聞き手:藤村美千穂)
連載
子どもの創造力を育てるには? -石戸奈々子さんの取り組みー
子どもの創造力を育むワークショップ
初めてのワークショップ
――最初に企画されたワークショップについてお聞かせください。
最初は東大でサマーキャンプを行いました。海外では様々な大学が夏休みや長期休みに大学のキャンパスを開放し、地域の子どもたちに様々なカリキュラムを提供する取り組みが盛んに行われています。日本でも大学が地域に貢献していくという文化を育みたいと考えたのです。
夏休みに3日間の日程で子どもたちが集い、映画やアニメを作ります。中でも人気だったのがクレイアニメで、初めて出会った子どもたちが4~5人でチームを組んで、全ての工程を分担し子どもたちだけで制作を進めていくものです。ストーリーを考える子、キャラクターを作る子、絵コンテを描く子、一コマずつ動かして撮影する子、声入れをする子、編集をする子、音楽を作る子、といった具合です。
――子どもたちだけで上手に分担して作業するのは難しそうですが、うまくいったのでしょうか。
私たちが大事にしているのは「協働」です。今までの学校教育では、「その人が何を知っているか」という個人の能力が測られてきましたが、社会に出ると、一人の人が出来ることよりも十人が力を合わせて出来ることが求められますよね。
クレイアニメに取り組む子どもたち
子どもたちは、初対面の恥じらいからはじまり、意見を出し合い、ケンカして、仲直りする。お互いの得意、不得意をみつけて、自然と役割分担をしていく。引っ込み思案でなかなかチームに入れなかった子もいましたが、絵コンテを描き始めるととても絵が上手だったんです。そうすると周りの子も「凄いね」と感動し、「絵コンテを全部描いて」と頼む。すると、その子の表情がガラッと変わったんです。
こうして、3日間かけて協力して1つの作品を完成させます。3日間が終わってみると子どもたちはすっかり親友になります。
これまで「個性」と「協働」は対立することのように言われてきましたが、協働することでそれぞれの個性が際立ち、その中で自分が得意なことも見出せていくのではないでしょうか。
――子どもたちの生き生きした姿が目に浮かぶようです。
初めて出会った子とチームを組んでひとつのものを作り上げるというのは、子どもたちからすれば成功体験ですよね。それが自信になったという感想はよく聞かれました。他に保護者アンケートやお手紙でよく聞かれる声で意外だったのは、子どもの生活態度が良くなったということです。例えば、3日間楽しくて自分から起きる習慣が付き、サマーキャンプが終わった後も自力で起きられるようになったとか、食卓でサマーキャンプでの体験を嬉しそうに話して会話が増えた、など様々なプラスの影響があったようです。
――子どもたちにとっては、サマーキャンプが自発的に動いていくきっかけになったということですね。
私たちはそこで何らかの特別なスキルを覚えてもらいたいと思っている訳ではなく、「学ぶことは楽しいんだよ」と伝えたかったのです。その気持ちを育めたら、生涯ずっと学び続けられますよね。
変化の激しい時代を生きる子どもたちに求められていることは、「生涯にわたって学び続ける力」です。それが育まれていれば、たとえ社会がどんな状況に変化したとしても対応できます。だから子どもたちがこのワークショップを通じて学び方を身に着け、学ぶことが自分にとってとても楽しいことで、世界が広がるんだと感じてくれると嬉しいですね。
「協働」という考え方
――その後、石戸さんは実にあらゆるジャンルのワークショップを開かれています。その中で大切にされている考え方は何ですか。
私たちは、造形、デザイン、映像、音楽、身体、デジタル、プログラミング、サイエンス、数、ことば、食など多岐にわたるジャンルの中で、自ら手を動かし「つくる」ということを大切にしています。ワークショップを通じて出来るだけ多くの選択肢を用意し、子ども自身で好きなことや得意なことを見つけ、選択していけるようにしたいと思っています。
また、アーティストや科学者の方、大学の先生、ミュージアム、企業、行政など様々な方々と連携し、私たちも「協働」で活動の場をつくっています。
子ども向けワークショップを一堂に集めた博覧会イベント「ワークショップコレクション」は、全国各地で開催しています。デジタル時代の新しい学びをファッションショーのようにポップに伝えられないか?それがワークショップコレクションの始まりでした。現在は、2日間で10万人を動員するイベントに育ちました。
これまでCANVASの活動を通じて、社会における「ワークショップ」という考え方の浸透にある程度寄与したのかなと考えています。そして、これから子どもたちが生きていく上で必要になってくるのは、世界中の多様な考え方の人と協働しながら新しい価値をつくっていく力だと考えています。
音楽に関するワークショップ
――ジャンルにとらわれず様々なワークショップを企画されていますが、音楽についてはどんなワークショップを作られましたか。
音楽は他のアートに比べてハードルが高いんです。例えば、粘土があればすぐに作り始められる。紙とクレヨンがあればすぐに絵が描ける。それに比べて音楽の演奏には訓練が必要で、作曲は一部のプロフェッショナルがやることだと思われがちです。でも、多くの子どもたちがひとりでにメロディを口ずさみながら歩いていますよね。本来、音楽とはもっと身近なものなのではないでしょうか。
テクノロジーは表現のハードルを下げてくれる側面があります。昔なら楽典などを学んでルールを知らないと作曲できなかったかもしれませんが、今は絵を描くだけでそれが音楽になったり、簡単に作曲できたりするソフトも出てきています。もちろんプロフェッショナルになるには別のハードルもあるでしょうが、自分の曲が出来たという感動や体験は、もっと音楽を知ってみたい、学んでみたいという気持ちの原動力になりますよね。そのために音楽の敷居を下げて子どもたちに音楽を作る場を提供したいなと思ってやってきました。
おとコトひろば 発表風景
例えば「おとコトひろば」は音と言葉が集まる広場という意味で、子どもたちがメロディや詞を自由に持ち寄れるネット上での場です。音楽を聴いて消費する、コピーバンドをするのではなく自分が作り手になるということを大事にしていました。たったワンフレーズのメロディでもいいし、一行の詞でもいいから自分の作ったものを送っておいで、という形を取っていました。
音楽を通じて世代や地域を越えた子どもたちが集まってくれて、東京の子が投稿した詞に北海道の子がメロディをつけてくれるというコラボレーションも実際に生まれていました。自分は詞しか作れないけど、ネットに投稿すると誰かがそれにメロディをつけてくれるかもしれない、誰かがそれを歌ってくれるかもしれない。そうしてネットを通じて世界中の人と繋がって協働で一つの曲を作ることができる世界になっている、というのは素敵ですよね。
――私も昔、詞だけ書いて、誰か曲をつけてくれないかなと夢見ていた時期がありました(笑)その時代にもし「おとコトひろば」があれば救われていましたね。他に音楽を使った取り組みとしてはどんなものがありますか。
例えば「DJキッズドリーム」は、音楽という世界で情報を編集することをやってみよう、たくさん音楽がある中から自分の好きな曲を切り取って組み合わせて、人を喜ばせることをやってみようというものです。他には、Wiiを使い、高さによって音を変えるソフトで身体性を使って作曲をしてみようという取り組みもしました。
また、現代アーティストの方と、身の回りのものを使って自分の音を作るということもしました。例えば、この紙とペンを叩きます、振ります、という絵を譜面に描くことで、一種の楽譜を作っていくんですよ。最後にみんなでその絵を見ながら演奏する。子どもたちからすると、ドレミファソラシドの音階にとらわれることなく出来るというのが利点です。
――音楽を基にしたワークショップだけでも、とても多彩ですね。そのような多様な発想はどこから来るのでしょうか。
ケースバイケースです。「おとコトひろば」の場合はコンセプトありきで、作曲の敷居を下げたい、協働で音楽を作れる場を用意したい、というコンセプトを満たす方法を考えました。一方で、アーティストの方と組む中で発想を持ち寄ることもあります。
石戸さんたち大人が豊かなアイディアを持ち寄ってワークショップを組み立てていることで、その背中を見た子どもたちが「協働」のエッセンスを学んでいるようにも感じました。
次回は、家庭で子どもの創造力を伸ばすには何が大切なのかを伺います。
(インタビュー・文 藤村美千穂)
→「3.家庭で子どもの創造力を伸ばすには」に続く(全3回連載予定)
◇プロフィール
石戸 奈々子(いしど ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。
総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。
著書に「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「子どもの創造力スイッチ!」、「デジタル教育宣言」など。
これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。
実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。
デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。
http://canvas.ws/nanako/