子育て・教育
2019年10月03日掲載 / この記事は約5分で読めます
子どもは一日単位で出来ることがどんどん増えていきます。家庭でもあらゆる方向から娘の成長を支えたいと、積み木遊びや絵本の読み聞かせ、滑り台の練習、手遊び歌など試していますが、どうもワンパターンになりがち。親としては何をどう、どこまで手助けすればいいものかと悩みます。
そんな中、子どもたちの能力が思いっきり開花するような学びの場を数々生み出されている石戸奈々子さんを知り、是非その豊かな発想から子育てのヒントを伺いたいと考えました。(聞き手:藤村美千穂)
連載
子どもの創造力を育てるには? -石戸奈々子さんの取り組みー
日本中の子どもをクリエイティブに!
石戸奈々子さんの歩み
――石戸さんは子どもたちのための創造的な遊びと学びの場を提供するNPO法人CANVASを立ち上げておられますが、そのきっかけを教えてください。
東京大学工学部を卒業した後、マサチューセッツ工科大学のメディアラボに参画しました。「メディアラボ」は1985年の設立以来、デジタルの未来社会に対するビジョンを世界に対して打ち出し続けてきた研究機関です。ホログラフィー、ウェアラブルコンピューター、バーチャルリアリティ……今となっては身近な存在となったこれらの技術も、「メディアラボ」が生み出したものです。
また、「メディアラボ」は、テクノロジーと社会との接点を常に模索しているラボでもあります。「デジタルの恩恵を一番受けるのは途上国と子どもたちである」という考え方のもと、デジタルデバイドの解消やアフタースクールプログラムの提供など、現場の声を活かして技術的課題を解決しながら、思想と技術を普及させていく活動に熱心でした。メディアと子どもに関する研究所を作り、教育ツールや方法論の開発をしていたのですが、ICTによる子どもの学習、創造、表現という取組みは、日本の方が必要としているのではないかと考えるようになりました。
そして、世界にはチルドレンズ・ミュージアムなど多様な学びの場があります。チルドレンズ・ミュージアムは、展示されているものを見て鑑賞するのではなく、参加型で体験しながら学んでいく施設です。私が初めて出会ったのはボストンのチルドレンズ・ミュージアムで、子どもたちが色鮮やかな展示によじ上ったり、中にもぐったりと、自由に駆けずり回りながら五感で展示物を感じ、好奇心の赴くままに夢中で遊び学ぶ姿に衝撃を受けました。
――日本の博物館や美術館ではなかなか見られない光景ですね。
日本にもこのような学びの場が必要だと思いました。日本も世界に誇る教育を構築し、だからこそ急速な高度成長を成し遂げました。一方で、個人が表現したり創造したりコミュニケーションを取りながら学ぶ、という要素は少なかったのではないでしょうか。
「日本中の子どもたちがクリエイティブになって欲しい!」という願いを形にするために、最初は学校の現場でカリキュラムとして提供していきたいと思っていました。しかし、2002年当時の日本の教育システムに参入することはなかなか難しかったのです。そこで、まずは学校外の学びの場を作ることから始めようという方針にしました。
ワークショップコレクションの様子
――そうして、これまでになかったスタイルの学びの場がたくさん生まれたんですね。石戸さんの目にはどんな未来が見えていますか?
総合的な普及活動を通じて、15年程の間に約50万人の子どもたちが活動に参加しています。デジタル技術を活用し、協働で創造する学びの必要性の認知が社会に広がるとともにCANVASが取り組んできた活動の需要が高まったことを実感しています。
2010年以降は「公教育への導入」を目指し、教育情報化推進とプログラミング教育の実践への取組へとつなげました。
教育情報化推進に関しては、2020年までに一人1台情報端末環境を整えることが政府目標として掲げられました。これはデジタル技術を活用し、子どもたちが協働で創造的に学ぶ環境が整うことを意味すると考えています。
また、2002年から取り組んでいたカリキュラムの1つとしてのプログラミング教育に関しては、必修化を見据えたカリキュラム開発や情報の収集・発信、指導者人材育成、地域での継続的実施体制、プラットフォームの構築を手掛けてきました。そして、2020年からプログラミング教育を必修化する政府方針が示されました。
学校を世界最先端の学びの場にするべく、これからも取り組んでいきたいです。
また、「メディアラボ」が日本の子どもと他の国の子どもを集め、デジタルの未来社会を議論するジュニアサミットを開いていましたが、そういったことも今後やりたいですね。これからの子どもたちは言語だけではなく映像を使ったコミュニケーションも有効になると思います。
以前コマ撮りアニメのワークショップを開いた際は、イタリアとブラジル、カンボジアと日本の子どもを繋ぎました。そのアニメに登場する人物や物、背景を子どもたちに描いてもらうと、日本の子どもたちの描く人物の髪の毛は黒い、カンボジアの子は高床式の住居を描く、という風に、国ごとに様々な特徴が出てくるんですね。他の国の子どもたちは「この家、どうして床が高いんだろう」などと不思議がる。作品の中でどの国の絵柄を使うのか自由に議論してもらうのも面白い経験でした。また、カンボジアの子たちは色鉛筆を持つこと自体が初めてでしたが、彼らの絵はとても人気でした。どこか生命力に溢れる魅力的な絵なんです。
そのように様々な国の子どもたちが大いに刺激し合えるような場をもっと作っていきたいですね。
「日本中の子どもたちをクリエイティブに」という願いを着実に形にしてこられた石戸さん。次回は、石戸さんが実現してこられた学びの場、ワークショップについて伺います。
※チルドレンズ・ミュージアムについては、石戸奈々子さんの著書『子どもの創造力スイッチ!』にもたくさんの具体的なお話が出てきます。ぜひご覧ください。
(インタビュー・文 藤村美千穂)
→「2.子どもの創造力を育むワークショップ」に続く(全3回連載予定)
◇プロフィール
石戸 奈々子(いしど ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。
総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。
著書に「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「子どもの創造力スイッチ!」、「デジタル教育宣言」など。
これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。
実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。
デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。
http://canvas.ws/nanako/
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