子育て・教育
2020年01月09日掲載 / この記事は約6分で読めます
子どもたちの創造力を育てる場を多く生み出している石戸奈々子さんの活動を紹介する連載。第3回では、家庭で子どもの創造力を伸ばすために親が気をつけるべき点についてアドバイスいただきます。(聞き手:藤村美千穂)
連載
子どもの創造力を育てるには? -石戸奈々子さんの取り組みー
家庭で子どもの創造力を伸ばすには
親がファシリテーターに
――著書の『子どもの創造力スイッチ!』では、親が子どもの興味や主体性を引き出すための心得が多く書かれています。石戸さんもお子さんをお持ちですが、ご家庭でお子さんの創造力を伸ばすために意識されていることはありますか。
基本的な考え方はこれまでの話と同じで、大人の意向とは別に何を選択するかは子どもそれぞれなんですよね。なので、親が出来ることはなるべく多くの選択肢を用意してあげることだと思っています。出来るだけ色々な経験が出来る場に連れ出し、何を選ぶかを見守りたいですね。
――親としては、子どもが興味を持っていそうなものをうまく汲み取る力が必要ということですね。
子どもが何かに関心を持ったときに、一歩進んで「これもあるよ」「こっちもどう」という情報を提供してあげると、子どもたちはさらに次のステップに上がって興味を深掘りできます。しかし、親が何もかも知っていなくてはいけない、ということではありません。一緒に調べればいいんです。
これは学校の先生にも言えることですが、今までは先生の頭の中にあるものを伝達する場が学校でした。しかし、これからの時代は検索すれば多くの情報を得ることが出来ます。これまでのようなただ知識を丸暗記することに評価の力点が置かれる学びは変化するでしょう。そのような時代に先生に求められるのは、クラスの中で議論をし、子どもたちの理解を深めていくファシリテーターの役割ではないでしょうか。
親も同じで、例えば鉄道のことが好きな子どもは、知識でいうと親よりも詳しく電車の名前を知っていますよね。でも「これ何だろうね?」と尋ねたときに「じゃあ一緒に調べてみようか」と導く姿勢が大事なんじゃないかと思っています。
これからの新しいコミュニケーションを作っていくのは子どもたちの世代で、大人が提供できるのは場とツール。ここは一貫しています。子どもたちがフルスイングできるような環境を用意するのが大人の役割だと考えています。
――ワークショップの内容で、家庭で出来そうな遊びに応用できそうなものがあれば教えてください。
私たちがやっているワークショップでは、全て身近な素材を使っています。例えば、色とりどりのクリアファイルを好きな形に細かく刻んで、その後は自由に組み立てていく。細長いものを繋げてアクセサリーにする子もいるし、全部四角く切ってすごろくを作る子もいる。一度、ボロボロになったクリアファイルを渡して「何を作る?」と始めてみるのもいいかなと思います。
――どんな遊び方があるか発想するには、親がまず「クリアファイルは紙を挟むのにしか使えない」という凝り固まった考え方を捨てるのが大事ですね。
いつも使っている物も少し見方を変えると全く違うツールになったり、人によって同じ材料を使っても全然違う作品が生まれてきたりすることから、多様な視点が育まれていくと思います。
子どもたちは元来創造力が豊かなので、親がその可能性を潰さないことが大事ですね。
例えば、絵を描いていた子がクリスマスツリーを青く塗っていたら、お母さんがやってきて「クリスマスツリーは緑でしょ」と言ったんです。すると、その子は即座にその絵を破って捨ててしまいました。「なんで破っちゃったの?」と尋ねたら「上手に描けなかったから」と答えたんです。お母さんがいいと言ったものが、その子にとって「上手」だったということです。でも、青いクリスマスツリーでもいいですよね。
子どもたちは親のことが大好きでよく見ています。お母さんに上手だねと言われたいから、そう言われるような行動をする。でも、今の常識が10年後の常識なのかもわからないし、自分が常識と思っているものが皆の常識なのかもわからない。「これはダメ」と言いたくなる気持ちもわかりますが、答えのない時代を生きていく子どもたちに1つの正解にたどり着くような学びの姿勢は似合わない。「どういう感覚でこの絵を描いたの?」と尋ねてみるほうが、子どもの創造力を伸ばしていけると思います。
子どもがデジタルとどう付き合うか
――石戸さんはデジタルを教育に取り入れる活動をなさってきました。そこで、子どものデジタルとの付き合い方についてもアドバイスをお願いします。
まず、今の子たちが情報端末に全く触れずに生きていくことは不可能だと思います。
例えば小中学生に人気の動画サイトでは雑多な情報が配信されているので親としては心配な面もありますが、自分で映像を作り、表現が出来る場が増えたとポジティブに考えることもできます。今は学びたいという気持ちがあれば世界中の情報にアクセスできますし、世界中の人と協働して10代で起業する人もいます。動画を使って自分のアイディアを多くの人にアピールすることもできます。デジタルは怖いから、危ないから、デメリットがあるからと伏せてしまうより、上手な付き合い方を小さいうちから学んだほうが良いですね。
それには、子どもがデジタルをいい方向に使えるように大人が導いてあげることが必要です。デジタルを創造的に使えるように、私たちもその一端を担えればと思います。
今後の予定
――近々予定されているワークショップはありますか。
現在は毎週のように全国各地で開かれていますので、ぜひCANVASのサイト「ワークショップ・イベント」の欄をご覧ください。(リンクはこちら)
私たちのワークショップは4歳頃の年齢の子から小学生くらいが対象のものが多いですが、他の団体にはより年少の子たちが対象のものもあるので、どんどん参加していただければと思います。
――どれも楽しそうで、ぜひ参加したいと思います。貴重なお話をありがとうございました。
石戸さんは柔らかい雰囲気を持ちながらも強い芯を感じさせ、細身の身体のどこにそんなパワーが潜んでいるのだろうと不思議になるほどエネルギッシュな方でした。
親としても表現者としても大いに刺激を受けたお話でした。
(インタビュー・文 藤村美千穂)
◇プロフィール
石戸 奈々子(いしど ななこ)
NPO法人CANVAS理事長/慶應義塾大学教授
東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、NPO法人CANVAS、株式会社デジタルえほん、一般社団法人超教育協会等を設立、代表に就任。慶應義塾大学教授。
総務省情報通信審議会委員など省庁の委員多数。NHK中央放送番組審議会委員、デジタルサイネージコンソーシアム理事等を兼任。政策・メディア博士。
著書に「プログラミング教育ってなに?親が知りたい45のギモン」、「子どもの創造力スイッチ!」、「デジタル教育宣言」など。
これまでに開催したワークショップは 3000回、約50万人の子どもたちが参加。
実行委員長をつとめる子ども創作活動の博覧会「ワークショップコレクション」は、2日間で10万人を動員する。
デジタルえほん作家&一児の母としても奮闘中。
http://canvas.ws/nanako/