「はやくしなさい!」「まだできないの?」……忙しいときや急いでいるとき、ついつい言ってしまいがちな言葉ですよね。言われたことをすぐやれたり、テキパキと行動できたりすることはたしかに良いことです。しかし、子どもの脳に関して言えば、それは良いことばかりではありません。
なぜなら「はやくしなさい」という指示は「今やっていることを、時間をかけずにやりなさい」ということを意味します。脳科学的には、「脳をたくさん使わず、ちょっとだけ使って、今やっていることをパパッと終わらせなさい」と言っているようなもの。脳の成長を促すためには、“脳が働いている時間”を増やさなければならないのに、「はやく」と急かせば急かすほど、子どもの考える機会や、脳を縦横無尽に使う機会を奪うことになっているのです。
子どもと接するときにお父さんお母さんに心がけてほしいのは、できるだけ急かさず、話しかけたら「ちょっと待つ」こと。親が待ってあげることが、子どもの脳、とりわけ聴覚系脳番地に有効なトレーニングになるのです。
ではなぜ「待つ」ことが、脳トレになるのでしょうか? それは、脳の構造に秘密があります。耳から入った音や情報は、最初に聴覚系脳番地に入ります。その後、言葉を理解する理解系脳番地と、情報を覚えたり思い出したりする記憶系脳番地へ情報が入ることで、ようやく本当に「聞けた」(=聞いた内容がわかった、覚えた)ことになります。聴覚系脳番地に十分言葉が届かなければ、あるいは届いていても、理解系脳番地や記憶系脳番地にその言葉がとどまる時間がなければ、行動を起こせないつくりになっているのです。
ですから、情報が子どもの耳に入ったら、脳番地の処理を順番に進めていく時間を確保する=「待つ」ことが何より大切。それが自然と、子どもの聞く力を伸ばすトレーニングになり、脳の成長にも繋がっていくというわけです。
そもそも「聞くこと」に限らず、脳が未熟な子どもは、大人と同じことをするにも脳内での処理に時間が数倍かかると言われています。それは、脳番地同士をつなぐ脳の道路(ネットワーク)ができあがっておらず、砂利道のようなところがほとんどだからです。脳の中のネットワークが砂利道のときは、ゆっくり進むのが正解。ゆっくり着実に進むことで地ならしをし、スピードが出せる舗装道路を作りあげるのです。
はやく処理できるようになるまでにかかる、その「もどかしい時間」が、脳の成長には必要不可欠。反応がないからと言って言葉をかけ続けたり、遅いからといってすぐ手を貸したりしてしまっては、せっかくの子どもの脳の活動を邪魔してしまいます。焦らず、「ちょっと待つ」(=話しかけたら、適度に時間を置く)、ぜひ実践してみてください。
子どもの脳のネットワークを砂利道から高速道路に変えるには、「ちょっと待つ」のほかにも気をつけたい親の関わりがあります。次回は、子どもの脳の成長を妨げてしまう親の習慣や、聞く力を伸ばすための親子の話し方についてお伝えします。
※次回は8月1日掲載の予定です。
加藤 俊徳(かとう としのり)
1961年新潟県生まれ。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。小児科専門医。昭和大学客員教授。発達脳科学・脳機能生理学・MRI脳画像診断・脳機能計測の専門家。MRIを使って脳を画像化し、独自の方法で分析・診断することで、個人に合わせた脳の育て方やトレーニング法を指導。テレビ・ラジオ番組出演のほか、『脳の強化書』(あさ出版)、『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(青春出版社)など、著書多数。
取材・文:横山 香織(よこやま かおり)
1979年、新潟県生まれ。編集プロダクションを独立後、フリーランスの編集・ライターとして活動。現在は3人の子どもを育てながら、絵本・子育て・健康医療等をテーマに、WEBサイトや書籍、広告媒体で執筆中。