私はこれまで30年以上、小児科医として、また脳科学者として、子どもたち、そして親御さんたちと向き合ってきました。その中で子育てに関するさまざまな相談を受けていて思うのは、同じ歳の子どもがいる親御さん同士でも、育てている子どもの性別によって、悩みや心配ごとは全く違うということ。女の子は言葉が達者で聞き上手。でも、細かいところに目が行くものの、視野は狭くなりがちです。逆に男の子は口ベタで、落ち着いて話を聞くのが苦手。しかし、動くものへの反応が良く、集中して観察する傾向があります。こんな風に「得意なこと」と「苦手なこと」がそれぞれ違うからなんですね。
なぜ、このような男女の違いが生まれるのでしょうか? 実は、遺伝子でも性格でもなく、“脳の働き方”の違いによるものなのです。
脳は、担当する機能や働きによって、「聴覚系」「視覚系」「記憶系」「理解系」「思考系」「伝達系」「運動系」「感情系」の8つのエリアに分かれていますが、このエリアを私は「脳番地」と呼んでいます。脳は一気に丸ごと育つのではなく、“脳番地ごとに”成長するという特徴があるのです。
中でも、「記憶系脳番地」の“海馬”(一時的に情報を記憶して保持するときに働く部位)は、女の子のほうが、男の子に比べて少し成長が早い。私が多くの研究により見出した事実です。この「記憶系」と、聞く力を司る「聴覚系」の脳番地は結びつきが強く、お互いに刺激しあうため、共に育つ傾向があります。女の子が幼いうちから人の話をしっかり聞けたり、おしゃべりが上手だったりするのは、脳の聴覚系に加えて記憶系エリアの発達が早いからなのです。
逆に、男の子は聴覚系と記憶系の成長がゆっくり気味。その代わり、見る力を司る「視覚系脳番地」が発達しやすいという特徴があります。男の子が電車や車などの乗り物を見るのを好んだり、虫や生き物をじーっと観察するのが好きだったりするのは、この視覚系脳番地の成長の早さによるものなのです。
このような男女差はあるものの、脳の成長バランスには個性がある、というのが大前提。これまでの生活習慣や経験によって、一人ひとり脳のバランスが違います。
私は、性格やふるまい・行動の特徴など、その子のキャラクターは、脳番地の成長バランスで決まる、と考えています。成長している脳番地(=得意な脳番地)は出番が多く、いつでも子どもの行動をサポートします。聴覚系脳番地が育っているなら歌や踊り、運動系ならかけっこや鬼ごっこ、伝達系ならおしゃべり、理解系なら読書や片付けなど、好きなものや得意なことをするときに働くのが、いま発達している脳番地です。
逆に、まだ十分に育っていない未熟な脳番地(=苦手な脳番地)は働きが弱いので、その脳番地が必要なときにトラブルが起こりやすくなります。例えば、聴覚系脳番地が未熟だと人の話を最後まで聞くのが苦手で、指示を聞き逃してしまうこともしばしば……。でもそれを理解して、子どもの可能性をうまく引き出してあげれば、かえって強みになることも事実。我が子の得意な脳番地、苦手な脳番地を知って、子どもの能力を上手に伸ばしてあげたいですね。
男女共に、得意なことを増やす、伸ばすために、子どもの時期から育てるとよい脳の「力」とは?それは、脳番地ごとに発達する「旬」の時期がそれぞれ異なる事と大きく関係があります。
次回は、子どもの脳全体の成長を促すために不可欠な脳の「力」と、育てる時期についてお伝えします。
※次回は6月6日掲載の予定です。
加藤 俊徳(かとう としのり)
1961年新潟県生まれ。株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。小児科専門医。昭和大学客員教授。発達脳科学・脳機能生理学・MRI脳画像診断・脳機能計測の専門家。MRIを使って脳を画像化し、独自の方法で分析・診断することで、個人に合わせた脳の育て方やトレーニング法を指導。テレビ・ラジオ番組出演のほか、『脳の強化書』(あさ出版)、『男の子は「脳の聞く力」を育てなさい』(青春出版社)など、著書多数。
取材・文:横山 香織(よこやま かおり)
1979年、新潟県生まれ。編集プロダクションを独立後、フリーランスの編集・ライターとして活動。現在は3人の子どもを育てながら、絵本・子育て・健康医療等をテーマに、WEBサイトや書籍、広告媒体で執筆中。